心安らかな旅立ち
才能ある女性映画監督がこの時代で高く評価されていることに、まずは興奮する。1970年、山田洋次監督の『家族』が公開された頃には想像できなかったことだと思う。時は過ぎ、半世紀50年後、有能な女性監督たちは、我々に様々な選択肢を示してくれる。
1970年の映画「家族」はほろ苦いロードムービーだった。北海道の開拓地での生活に希望をたくす一家が長崎の島を出て、高度経済成長にわく日本列島を旅する。赤ん坊と幼い息子を連れ、老いた義父をいたわるしっかり者の若い妻を倍賞千恵子さんが演じていた。
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▼それから半世紀あまり、公開中の映画「PLAN75」の主役は78歳の女性だ。倍賞さんふんするミチは、同世代の女友達らとホテルの清掃員をしながら自活している。しかしささやかな暮らしは仕事を失ったことでほころび始める。身よりのないミチは行き場をうしない、政府が導入した制度「プラン75」の利用を決める。
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▼それは社会の高齢化を押しとどめるための政策で、75歳になると「安楽死」を選べる。支度金10万円がもらえ、心のケアも受けられる。窓口の担当者は保険の加入でも勧めるかのように「心安らかな旅立ち」の内容を説明するのだ。まさかと思って見るうちに、どんどん背筋が寒くなる。現代日本の"ディストピア映画"だ。
▼プラン50や60があったら早めに申し込む、迷惑かけて生きるのはイヤ――。映画にはそんな感想も寄せられているという。高齢者を追いつめる社会の非情こそがメッセージであるはずなのに。倍賞さんら日本の発展をになった世代が目の当たりにする現実。必死に生きる人々へのエールだった「家族」の苦い"続編"である。
2022年6月26日 日本経済新聞 春秋
思えば、山田洋次監督は『男はつらいよ』シリーズを中心に数々の”家族”を描いて生きた。しかしその中には「家族が永遠に続く」ものとして示されていたと思う。だがいまは違う。現代の家族は分断と崩壊を意味するものだ。いないほうがいいと言われた年寄が選ぶ「心安らかな旅立ち」は、ただの”間引き”だ。それは今村昌平の『楢山節考』に遡及し、分断こそがバランスを保つことを予言していたのである。ヤン・ヨンヒ監督の『スープとイデオロギー』を曲解すれば、家族はもともと分断されるために存在する。シェークスピアの「リア王」をモチーフにした黒澤明監督の『乱』や大島渚監督の『少年』も同じような警告を発している。
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