教養としてのチャップリン 大野裕之
ちょっと長くなるかもしれないよ、このしょうもない記事。
「ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン」
映画館で久しぶりにチャップリンを鑑賞して、初日のトークイベントで大野裕之さんを初めて知って、彼がラジオで宇多丸さんとお話されているのを聞いて、俄然この本を読みたくなった。そしてあっという間に読み終えた。そしてとても感動。
- ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン
- 大和書房
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何度も過去の記事に書いたが、チャップリンは映画館がいい。映画館で大勢のお客さんと見るチャップリンは格別である。そしてこの本をチラリと読んでから見るとより感動が増幅するであろう。ラジオでも大野裕之さんが言われていたが、多くのチャップリン作品を見るにあたって、いまなにが最も鑑賞にふさわしいかというと「独裁者」だと思う。
この著書の最終章で「独裁者」に触れられているのだが、映画を見てここを読むと感動が再びよみがえりさらに増幅する感じがする。もともとチャップリンは「ナポレオン」を映画化する構想を持っていて、もしかすると独裁者について描く予定がほかにあったのかもしれない。ところが自分と同い年のヒトラーの出現を見て、放置できないと感じたのか、この映画の製作に取り組むことになったようだ。驚くことばかりなのだが、特にこの映画が作られるまでに多くの妨害があったことにはびっくりした。政治的な圧力だけでなく、一般のファンからも脅迫の手紙が送られてくるなど、チャップリンを傷つけようとする勢力が大きかったことが記されている。ところが映画が公開されるとチャップリン作品の中で最高のヒットとなる。ここに当時の空気感が漂う。まだ第二次世界大戦に突入する前にチャップリンはこの映画と撮っている。そして映画は大ヒット。しかし戦争が始まる。当時この映画を見た観客はヒトラーを笑い者にしておきながら、ポピュリズムは戦争と止めなかった。ちなみにヒトラーの側も変化があったらしい。それまでヒトラーは何度も演説を繰り返していた。ヒトラーの求心力は演説力だ。それがこの映画が公開されたあと、演説回数が激減したらしい。
有名なラスト6分、床屋のチャップリンが画面に向かって語りかける。
Charlie Chaplin - Final Speech from The Great Dictator
何度見てもこのシーンは涙が出る。この演説のシーンの凄みとは、カメラがチャップリンを捉えたまま動かないことだという。チャップリンはこの映画の最後に、自ら観客に向けて語りかけている。歴史的な名場面。そして最後の最後、ハンナ役のポーレット・ゴダードがあるセリフを囁いて終わる。なんという感動だろう。いままさに世界のどこかで戦争が起きていて、多くの犠牲者が生まれている。第二次世界大戦後、戦争を放棄したはずの東アジアのある国が国民に負担を強いて防衛費を増やそうとしている。こうした実情を見ても、このラストシーンは普遍的だ。ゼレンスキーがカンヌ映画祭に寄せた言葉もまた意味深い。
と、
いうように、
この著書にはあまりにも素晴らしい情報が詰まっていて、とてもじゃないがこのしょうもないブログの記事では収まりきらない。
それにしても大野裕之さんはすごい。
過去に例のないチャップリンのNGフィルムを全部見直して、チャップリンの創作に対する姿勢と、根底にある狙いなどを掘り下げるという途方も無い仕事に取り組んでいる。何度もNGを繰り返し、削ぎ落とした先に必要な映像が残る。さらに「モダン・タイムス」のラストシーンにかかる人物の影について、現地まで赴いて検証するなど、とにかく徹底した調査と裏付けに基づいてこの本を書いている。ビジネス本としても役立つかもしれないが、大野さんが調べて時代背景などを想像すると面白さが増す。
ある意味で語り尽くされたと思われていたチャップリンの新しさを認識できる著書だ。
全く知らなかったことで驚いたひとつが、なんとチャップリンが経済論文を書いているという点だ。これは驚きだ。「経済解決論」と題されたこの本でチャップリンは1931年に失業対策と通貨統合について提唱している。1929年の世界恐慌を受け、チャップリンがこれを論じたと聞いて、自ら資本を動かす偉人による経済政策を想像する。
チャップリンがとにかく社会のあらゆる問題を喜劇に変えて示したことがよくわかる本だ。彼自身が「移民」のようにアメリカに来て、自らの作品と主張果てにアメリカを追い出され、晩年に再びアメリカで復権するまでの過程には、チャップリンの社会に対する弱者目線がある。それは自身が極貧の中で育ち、大変な苦労を重ねてきた肌感覚がそうさせているものだろう。
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