今こそ読みたいケインズ 根井雅弘著
根井雅弘先生の著書は、2009年に中公新書から出版された「市場主義のたそがれ」という本で、サブタイトルにある”新自由主義の光と影”のとおり、リーマンショックに至る新自由主義経済を掘り下げつつ、その過ちをやんわりと指摘する内容だった。フリードマンがレーガン政権に影響し、福祉を削ってでも減税するという富裕層寄りの政策にシフトしたことで、ケインズ経済学が危険思想と位置づけられたことなども付言している。
あれから根井先生はいくつかの著書を書き、今回再びケインズへと帰趨しようとするこの本を出した。
ちなみに根井雅弘先生はわたくしと同世代で、この本の後半部分に自分が間接的に教えを受けた先生のことなども紹介されていて、専門ではない自分にとっても臨場感のある内容であった。当時、ポストケインジアンのゼミを選んだことで、バブル景気の踊る世の中からは距離を置かれる立場だった。あれから40年近い時を超えて、世の中はこうも変化するのかと思う。今はもはや「大きな政府」か「小さな政府」かという議論を超えて、資本主義そのものが危ぶまれていることが喧伝されている。この本もまた、そうした文脈から読み取ることができる。
根井先生は冒頭で「産業政策から長期雇用としての”一般理論”を捉える」ことのこの本の目的としてる。要するに雇用だ。一般理論は難解で、読み方も捉え方も様々ではあるが、「雇用、利子及び貨幣の一般理論(以下「一般理論」という」という正式なタイトルに示すとおり、いくつかのカテゴリーから資本主義を定義づけ、雇用を維持するための政策を示したものだ。
しかし根井先生は、1936年に出版された一般理論の10年前に「自由放任の終焉」がケインズの評価を誤解させる遠因となったことを示す。自由放任の終焉イコールアダム・スミスの否定がごとく短絡的に示される印象だがそうではなく、ケインズは恩師マーシャルやスミスの理論を踏襲しつつ、新たな経済政策として「有効需要」を提案する。理論が衝突するとき、誰もがそれをもってシロクロつけたがるがそうではない。チャーチルの言葉で、
資本主義は幸福を不平等に分配する制度
社会主義は不幸を平等に分配する制度
というのがあるらしいが、チャーチルらしくシニカルで現実的な言葉だと思う。先ごろ読んだ猪木武徳先生の著書にもつながる考え方だ。
さて、本書はさらに「産業政策がケインズ政策の柱」であることを示し、これらの情報を踏まえて「一般理論をどう読み解くか」と展開してゆく。有効需要政策を短期の政策として捉える傍らで、長期的な安定、特に雇用の安定を維持するための有効需要を産業政策と関連づけるべき、というイメージか。思えば、根井先生がそのまた恩師伊東光晴先生とともに書いた「シュンペーター」という本は示唆に富む。1993年の本だ。この本の冒頭でケインズとシュンペーターを比較し、当時それぞれの置かれた立場、イギリス人として影響力の大きいケインズと、オーストリア人で世界的影響の小さなシュンペーターを対峙させ、それぞれの利点を結合させるような内容に導いている。
本書は最後に「ケインズ以後から見たケインズ」を考察し、終章で「ケインズから現代へ」として、今こそケインズを読み直すときであると結んでいる。ポスト・ケインジアンのジョーン・ロビンソンが不確実性を重視したことや、ロバート・スキデルスキーの「なにがケインズを復活させたのか」を紹介し、
富の賢い活用という点で私たち(経済学者)は無能のままだ
という言葉を印象的に示している。いわゆるモラル・サイエンス。市場の失敗はモラルの失敗で永遠に不確実性を伴うから、一定程度政府が関与しなければならない。しかしその政府もポピュリズムに偏りすぎると、国民に阿る政策しか打ち出せない。この誤謬をいかに少なくするか。いずれにしても経済=貨幣愛が市場で絶対的な中心に腰を据えている以上、偏りはなくならない。こうした中で、雇用をいかに守れるか?が本書の中心であったと理解した。
日本の雇用が、ケインズが一般理論で示す”雇用”に符号するかどうかはともかく、この本が提起する一般理論の再考には十分な価値と意味があると思う。伊東光晴先生が「アベノミクス批判」という、いまで言えば予言の書を出し、命がけで阻止しようとした姿勢をいまこそ学ぶべきだ。この国はもう遅い。モラルも未来もない。ならばどうするか?を考える本である。
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