#ティル /#Till シノニエ・チュクウ監督
「ティル」
全く知らない「エメット・ティル法(反リンチ法)」の映画だった。恐ろしかった。
エンドロールの前に、この事件のあと公民権運動につながり、つい最近この法案が成立したと聞くとなおさら恐ろしくなる。事件は1955年に起きている。自分が生まれる少し前のことだ。そしてこの法律が正式に公布されたのが一昨年のことだ。
若き女性監督のシノニエ・チュクウ監督の生い立ちと、この映画の主演した美しきダニエル・デッドワイラーの見事な演技に集約される。冒頭のシーンがとてもいい。車を運転する母親のメイミーの不安そうな表情。シカゴの自由で明るい街の雰囲気で屈託のないボボ(エメット・ティル)の笑顔が眩しい。そんなかわいい息子が南部ミシシッピーで殺される。
息子が殺されるきっかけを作る、雑貨店の店主をヘイリー・ベネットが演じている。そう、あの「スワロウ」で抑圧された異物を飲み込む若妻を演じた彼女は、この映画でかなりシビアに憎まれ役を演じている。すごい女優だ。
Director Chinonye Chukwu on 'Till' and the story of Emmett Till's mother
この映画は大きなスクリーンにエメットの死体を見せるかどうかが大きなクライマックスとなっている。見えそうで見えない。でも現実にそこには息子の死体がある。息子が殺された現実を明らかにしても、殺害の容疑者は無罪となる。この劣悪な状況は、広く視線を広げれば、ウクライナやエルサレムで起きている戦争を連想させる。憎しみの連鎖。
素晴らしい映画だが、ひとつだけ残念に思うのは、被害者としての黒人だけでなく、少しでも憎しみを植え付けられた白人(アングロサクソン系)の立場や心情を掘り下げることができればなお良かったと思う。被害を示すだけでは全ての解決に至らない。根底にあるものを示せばなお素晴らしいと思う。
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