地霊を訪ねる ② もうひとつの日本近代史
サブタイトルの「もうひとつの日本近代史」とは、猪木武徳先生が各地を訪れたときに見つけた教科書には載らない歴史を示すものだ。猪木先生のバランスの取れた思想は、経済史だけでなく、近代史においても重要な意味を持つと思う。世界経済を広く見渡してきた猪木先生が日本の地方を掘り下げるという取り組みに驚きすら感じる。
猪木先生のみちのく旅ではイザベラ・バードやブルーノ・タウト(「達磨寺のドイツ人」)など、海外から訪れた人々も逃さず紹介している。
- ジャーニー・ボーイ
- 朝日新聞出版
- 本
日立から水戸にかけての旅で、アダム・スミスの「国富論」で、日本の銅について書いてあるらしい。日本の銅がヨーロッパの銅市場に影響したというのだ。日立の創始者とされる
ひ久原房之助や小平浪平にも言及する。
秩父鉱山では、秩父事件にも触れている。西南戦争からインフレとなり松方正義がデフレを誘引したことで農民が打撃を受け、日本近代史上最大の農民蜂起となったこの事件は、令和の今を重ね合わせることができないか。
足利学校の「宥座之器(ゆうざのき)」では、個人研究のタコツボ化を懸念する。
足尾銅山の足利鉱毒事件では、あの田中正造が明治天皇に直訴したことなどを知る。環境災害の実態は、いまも世界のどこかで起きている資本主義の悪しき暴力的な作用を感じさせる。
石巻小学校の「教育注意要項」には、
手ぶらで教えよ
劣等生を愛せよ
品格を持て
と書いてあり、水沢県庁の給仕から立身出世した後藤新平の自治三訣「人のお世話にならぬよう 人のお世話をするよう 報いを求めぬよう」にも感化される。
猪木先生は旅の過程で、温泉に浸かったり、歴史にまつわる場所を訪れるだけでなく、美術館にも立ち寄っている。光ミュージアムを訪れた際は、「美は私物化してはならない。美は善とつながる公共性がある。」と残している。まさにそのとおりだと思う。
資本は強欲でなんでも私物化(所有)しようとする。所有という絶対的な権利(権力)を行使して他者を圧する傾向がある。そしてときに宗教が政治を結ぶあう役割なども担う。「日本では宗教が政治に籠絡されている」ようだ。現在の与党もまた同じだ。
つづく・・・
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