#スペースマン ヨハン・レンク監督
Spaceman | Official Trailer | Netflix
「ボヘミアの宇宙人(Spaceman of Bohemia)」の原作者ヤロスラフ・カルファシュはチェコ共和国の生まれで、「ゴーストバスターズ」のアイヴァン・ライトマン監督や経済学者のトーマス・セドラチェクと重なり合う。特にカルファシュとセドラチェクらとその家族は「ビロード革命(Velvet Revolution)」という非暴力革命時代を重ねる。この映画の中でもチェコの独裁共産主義政権や革命についてほのめかされている。ここはこの映画にとって重要な部分だ。
まずはキャリー・マリガンのことを書こう。38歳になった彼女は、「17歳の肖像」や「華麗なるギャツビー」の純粋な面影は消え、大人の複雑な心境を示す女性を演じる渋みのある女優へと変化した。この映画もまた彼女が女性の複雑な内面を秘める人物を演じる。宇宙飛行士として長く自分から離れている夫と距離を置くことを決意する妻。自分の心の傷や痛みを夫は知らない。
ライアン・ゴズリングがアームストロング船長を演じた「ファースト・マン」が逆説的だ。アダム・サンドラー演じるヤコブはチェコの革命を知っている。世の中が急激に変化する時代にあって、自分のアンデンティを地球以外の空間に求める主人公は、家族(地球)などかえりみる余地はない。
宇宙船に突然現れたハヌーシュという宇宙人との交流を通じて、主人公の内面を掘り下げようとするドラマは、ヤコブが経験した社会変化、ある日突然共産主義が資本主義に変化する世の中の混乱を引き受けた人間のカオスをあぶり出そうとしているようにも見える。
タルコフスキーの「惑星ソラリス」が地球規模で社会変化や科学の進化を否定したことと、この映画は裏表の関係にある。ヤコブはむしろ科学の進化を盲信している。まるで宗教のように。そのことで失われた妻への思いを蘇らせようとする行為は、愚かな人間の内面を掘り下げるものではないか。
ハヌーシュが何者か?については特に問題ではないだろう。ハヌーシュは妻の代弁者であり自分でもある。むしろヤコブは祖国(母性)を失った者の象徴であって、クモの形をした異星人が自分(あるいは自分たち)であることの気づかない。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に影響したルカの福音書「金持ちとラザロ」を背景にあるとするならば、この映画は資本主義と科学の進歩を全否定するドラマだと捉えることはできないだろうか。
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ガーディアンの評価は★2つと低い。