さらば、欲望 ④ 滅びゆく文明
第4章 「民意」亡国論
民意という亡霊について考える。最たる例は民意の支持で政権を獲った「ナチス」。この国の維新と同じである。日本もまた民意に支持されて国連を脱退、それを新聞が支持して国民を揺動した。とかくメディアはひとつの角度から切り取って報道するもので、客観性などまるでない。日本という国は先祖を捨てて、民意というデモクラシーに単純化してしまった。
第5章 ポストコロナ時代の「死生観」
資本主義社会にあって、多くの文明が過信と慢心によって衰退に向かった。人は欲望の塊で、生きることしか考えないが、経済より重要なのは「死生観」である。この世にあって誰も経験したことのない「死」と向き合うことだ。そしておそらく唯一人間がだけが「死」を意識する生き物なのではないか。
第6章 日本近代ふたつのディレンマ
ここで再び福沢諭吉の「文明論之概略」で予言により、西洋文化の模倣では日本の独立は遂げられないとしている。日本人はとかく支配されるほうが楽なので、自主独立の責任と負担を考えるより、アメリカの言いなりになっているほうが面倒がなくていい。しかしこれがこの有り様である。デフレ脱却のきざしすらなく国民は税金を召し上げられ四苦八苦している。それでも与党や維新を支持する社会から、きっとヒトラーのような存在が生まれる日も近い。ちなみにヒトラーはデフレを脱却したヒーローだった。その方法は、他国に侵略し戦争がもたらすインフレで民衆を惹きつけた。
夏目漱石もまた日本の未来を憂いた偉人のひとりだ。魂の欠落した文明化に不快感を示した。「三四郎」で広田先生がひとこと「滅びるね」と発した言葉は、夏目漱石の言葉であり、現代日本を見事言い当てている。経済発展が自らを滅ぼす。そして愛国心が西洋文明によって分裂してゆくであろう未来を予言したのだ。
「資本主義は大きな成功を収めるがゆえに行き詰まる」と言ったのはイノベーションを唱えたシュンペーターだ。第二次世界大戦後、世界の覇権をグリップしたアメリカ主導の「グローバル経済」は、それ以前のイギリスが推し進めた植民地政策以上に世界を精神的荒廃と倫理的堕落の淵に立たせてしまった。
佐伯啓思先生は「隘路などない」と締めくくる。我々はこの現実を受け入れ、資本主義がなくなるのを黙って見ているしかなさそうだ。こうした悲観的ヴィジョンに身を置くべきだとして終わっている。
なんとも苦しい本だが、これを現実と理解して滅びゆく文明を見つめるしかなさそうだ。残念だが、この論に隙はない。我々は滅びゆく文明に身を委ねている。そして抗うことはできないのだ。
おわり
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