映画評論家への逆襲① 荒井晴彦ほか
2021年6月8日に小学館から発刊された本だ。
荒井晴彦(1947生れ)、森達也(1956年生れ)、井上淳一(1965年生れ)、白石和彌(1974年生れ)が揃ってミニシアターで対談したときのことを本にしたらしい。
もはや「映画評論」というジャンルは存在しないのではないか。そもそも映画なんか一生みたこともない方だっている。そうい限られたジャンルの映画評論家という肩書だけで食える人はもういない。いたとしてもYouTuberぐらいか。これも先々どうなるかわからない。
この本を読むきっかけも、四方田犬彦先生の「テロルと映画」と同じで若松孝二だ。この本はいわゆる若松組に接した映画監督たちが、コロナでミニシアター存亡の危機に、ノーギャラで小さな劇場を訪ねて対談するという「勝手にしゃべりやがれ!」という企画を文字にしたものらしい。これがまた、かなり熱のこもった議論が重ねられている。
井上淳一氏は「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の監督だが、冒頭で日本の映画興行について説明している。日本の映画興行収入の半分が東京で、残りの半分(全体の4分の1)が京阪神。さらに残りの半分(8分の1)が名古屋で、あとの残り8分の1がほかの地方都市というシェアだそうだ。さらに驚くことに、国内で上映される映画の7割がミニシアターで上映なのに、映画興行のたった6%しか回収できていないという実情だそうだ。いわばここに集まった4人の映画監督は、生き残りをかけた6%のミニシアターのために立ち上がったひとたちだ。いかにもシネマスコーレを作った若松孝二の後継者たちだ。
第1章 「仁義なき戦い」は国家と戦争を告発する
もともとヤクザ映画は大嫌いだ。それは今も変わらない気持ちだ。だから「仁義なき戦い」も嫌いだった。深作欣二監督も肌に合わない監督だった。しかし・・・
この対談で井上さんが総括しているとおり「組織がいかに脆弱でそれでも組織に頼らなければならない人間がいかに滑稽か。その組織の最たるものが国家で、組織犯罪最大の過ちが戦争で若い人が犠牲になる。」ということへのアンチテーゼがこのシリーズだったと聞いて愕然とする。映画も情報も自らの先入観に偏ると過ちを犯す。
荒井さんはこのメンバーの最年長で、若松孝二の弟子でもあるが、その若松孝二も新宿のヤクザ出身だったことを強調する。そして「やくざの墓場 くちなしの花」を評して、このシリーズで被差別部落と在日朝鮮人の問題を避けてとおることはできないと断言している。
2020年6月28日 シネマプラザ
★
★