#あんのこと 入江悠監督
「あんのこと」
大ヒット上映中の本作、朝9時台の回を鑑賞しに新宿武蔵野館に向かうと、長蛇の列ができていて満席になっていた。昔からある小さな劇場だが、映画館が満席になることは喜ばしいことだ。
入江悠監督というと、どうしても「SR サイタマノラッパー」を若干30歳で作り上げたエネルギー感が強烈で、あの印象が残像として強く残る。今や大きな資本を動かす大監督となって貫禄が出てきた。主演は河合優実さん。最近はテレビシリーズ「不適切にもほどがある」で昭和のヤンキーを演じるなど注目されているが、個人的には「由宇子の天秤」が印象的だった。よくよく考えるとこの3作には共通項が見られる。それは「更生」だ。
更生とは立ち直るという意味だ。
この映画で主人公の「杏(あん)」は立ち直る。中学にも行かず、毒母から体を売ることを命じられ、麻薬中毒になった彼女は間違いなく立ち直る。しかし・・・
彼女を立ち直らせる佐藤二朗さん演じる刑事。佐藤二朗さんは今年「変な家」も大ヒットして当たり年となっているが、「さがす」の失踪した父親が印象的だった。そんな佐藤二朗さん演じる刑事と、稲垣吾郎さん演じる記者。稲垣吾郎さんも「正欲」で複雑な役を演じていたが、この映画でも極めて微妙な立場に追い込まれってしまう。
更生しようとする少女が介護施設で人間らしい仕事を続けたり、夜間中学に通って勉強したりすると、そこにコロナが襲いかかる。彼女は再び孤独な立場に追い込まれる。
これはいったいなんだろう?
結末をここに書くことは控えるが、最後のほうで孤独になった彼女が窓から外を見ると戦闘機が轟音を立てて過ぎ去ってゆく。あの空に写った光景は彼女にとってどんな意味があったのだろうか。(同じ戦闘機を自分も見上げた。)
映画が終わったあと、映画館をあとにして、どこかの喫茶店の椅子に腰掛けた途端、ボロボロと涙が止まらなくなった。この結末が突きつける先が自分に向いていることに気づいたからだろうか。
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