鬼の筆 ① 春日太一著
- 鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折 (文春e-book)
- 文藝春秋
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春日太一さんは、かつて午前十時の映画祭企画かなにかで町山智浩さんと対談されている動画を見て気にかけていたが、「日本の戦争映画」という本を読ませていただいてとても感動したことを覚えている。
日本の戦争映画 春日太一著
戦争映画は嫌いで嫌いで好きになれないが、目をそらすことで失うものもあると思うので、イヤイヤ見た映画をたまたまこの本で解説されていて、中でも「拝啓天皇陛下様」のくだりでは涙が止まらなくなるほど感動した。この映画の話題とは別に、この国でも憲法第1条について議論がなされてもいいのではないかと思う。皇室ファンとして敢えてそういうことがあってもいいと。
さて本題だが、この記事で紹介する「鬼の筆」は、戦後最大の脚本家を呼ばれる橋本忍さんのことを書いた本だ。橋本さんへ直接インタビューした内容や橋本さんが書かれた著書からの引用を中心としたドキュメンタリーではあるが、橋本忍本人のドラマのような内容で読み応えがある重厚な本だった。
田草川弘さんがお書きになった、「黒澤明vsハリウッド」という著書にも近い構成になっている。
スピード感のある内容で、分厚い本だがすぐに読み終えてしまった。
1918年生まれの橋本忍さんは病弱で、戦争に行くこともなく岡山の療養所で過ごした話しから始まる。悲惨な内容かと思いきやそれほどではなく、同僚との会話などから過ごしやすい環境だったことが伝わる。橋本さんはここで伊丹万作宛に自分のシナリオを送りつけ、なんと伊丹さんから丁寧は返事をもらったということがあったようだ。
それでも結核でいつ死ぬかもわからない健康状態で、医者からも「2年以内に死ぬ」と宣告された頃、支那事変から真珠湾攻撃そして第二次世界大戦へと拡大してゆく。すくなくとも2年と宣告された命は永らえ、その後100歳で天寿を全うするまでシナリオを中心とする映画の世界に没頭したことが紹介されている。
戦時中、病に伏していた伊丹万作と手紙のやりとりでシナリオの指導を受け、終戦の翌年に伊丹が亡くなるまで指導を受けたらしい。のちに橋本さんがご自身で言うとおり、このときの伊丹万作さんからの指導は自分の人生を変えるほどの大きな転機だったという。
そしてここでもうひとり、橋本さんの人生を変える人物と出会うことになる。
つづく・・・
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