鬼の筆 ② 「藪の中」との出会い
- 鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折 (文春e-book)
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もうひとりの人物とは言うまでもなく黒澤明監督である。
黒澤監督の本は、シナリオ集も含め多く接してきたが、黒澤監督と生涯仕事を伴にした野上照代さんの「天気待ち」という本に、伊丹万作の息子伊丹十三を世話したことが書かれている。
橋本忍さんは伊丹さんからの助言もあって、夏目漱石は映画化されたが、芥川龍之介作品が映画化されていないことに着目し、「藪の中」を「雌雄」というタイトルでシナリオにしたところ、人を介してそれが黒澤明監督の手に渡り「羅生門」へとつながるドラマが始まったことが書かれている。
橋本の人生が大きく動き出す
その瞬間である。
黒澤監督は自著「蝦蟇の油」の中で、
無意識にあのシナリオを葬ってしまうのは惜しい。突然、脳のひだから這い出して”なんとかしてくれ!”とうめき出したのである。
と書いている。その後この作品の運命はほかに譲るとして、とにかく橋本忍さんと黒澤明監督の接点がここから長く続いてゆくのだ。このあたりは読んでいてい興奮するところだ。
ここからは黒澤明と小国英雄らとの関係が描かれる。「生きる」においては、「渡辺氏の昇天」と橋本がつけたタイトルのシナリオに小国が人物像について質問を重ねる。「30年、寝るときにズボンを寝押しし続ける男」といったイメージを作り上げる。
橋本は創作ノートに、
なぜ役人が多くなったのか。人間はだんだん怠け者(公務員)になる。今に日本列島は怠け者の人間で沈没する。
と書いている。(「日本沈没」を予感させる。)
そしていよいよ「七人の侍」のシナリオへと向かってゆく。橋本も黒澤も、書いているシナリオが現代の鏡となるよう意識しているところが興味深い。果たして、昨今の日本映画はこれができているのだろうか。
つづく・・・
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