バリ山行 松永K三蔵著 芥川賞、「'Unprecedented' rains」

バリ山行
バリ山行
講談社
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バリとは登山家なら知っている「バリエーションルート」のことらしい。バリ山行(さんこう)は整備・舗装された登山道から外れ、やぶの中に分け入り、時に垂直の岩場や滝を進む登山のことをいう。


芥川賞というよりは、本屋大賞に選ばれてもおかしくない読みやすさ。自分も多少関わりがある建設業界の実情を示す小説としても読み応えがある。著者の松永K三蔵さんのインタビューを読むと、彼が母親から与えられたドストエフスキーの「罪と罰」を読んで、「世界の果にある断崖絶壁に立たされた気になった」という。まさにこのドラマは断崖絶壁の話し。



主人公が転職した中小建設会社で登山に誘われる。和気あいあいと楽しんでいたが、会社に妻鹿(めが)さんという孤立した職人のような方がいて、たまたまその方と縁ができる。しかし彼はバリ専門で、登山道を歩くような安全な道を好まない。


かたや会社は大きな方向転換の最中で、大手企業の下請けに入ることになり、元請け工事から撤退しようとしている。元請け小工事を担当するのが妻鹿さんだ。妻鹿さんは現場に自ら赴いて着実に仕事をこなす。現場で使う青いマスキングテープは、登山のときの目印にも使っていて、週末は毎週バリに出かけているようだ。


主人公は妻鹿さんとバリに挑戦することになって、大変な思いをするのがこのドラマのクライマックスになっているのだが、このときに主人公は大きな怪我をして忙しい中会社を
休むことになる。このバリ山行のシーンは文字で読んでいてもドキドキするようなシーンの連続で、命がけでバリに挑戦することの恐ろしさが伝わる。


主人公はほとほと疲れて妻鹿さんに反発し「本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ。妻鹿さんは逃げてるだけじゃないですか。」と意見する。


この主人公の逡巡は、生きている我々、誰もが感じたことがある、あるいは感じていることを代弁する。所詮会社員という使われの身分で明日の仕事もどうなるかわからない。中小企業に勤めて会社そのものがどうなるかわからない不安を背負いながら生きる者の不安や不条理をこのドラマは丁寧に描ききっている。


妻鹿さんがさかんに主人公に伝える恐怖。本物の恐怖が何を意味するのか。


主人公が会社に復帰したら、妻鹿さんは社長とケンカして退職してしまっていた。連絡も途絶えてしまう。そして主人公は、まるで妻鹿さんが乗り移ったようにひとりでバリ山行に向かい、恐怖を目の当たりにしながら進んでゆく。その先に見えたものは・・・。


これは会社員の経験がないと書けないドラマだけに、とてもシンパシーを感じる。そしてドストエフスキーに影響された著者の不条理に対する姿勢が伝わる素晴らしい小説だった。この世の中は不条理劇の連続ドラマ。ドラマは延々と続き終わりがない。そんな中、このドラマの主人公妻鹿さんが示す「本物」を感じさせる内容だった。


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今年の元旦、大きな地震に見舞われた能登半島で前例のない(unprecedented)猛烈な雨に見舞われ、死者を含む被害者を出している。世界のメディアも大きく報道している。世界の報道は、日本の政治を大きく動かすきっかけになるのだろうか。少なくとも岸田政権は復興に積極的とは思えなかったが・・・



◆大雨により日本北部で土砂崩れや洪水が発生



One dead and several missing after 'unprecedented' rains in Japan
日本で「前例のない」大雨、1人死亡、数人行方不明


「ずっと呼んだがダメやった」自宅で土砂崩れに巻き込まれ…大雨特別警報の石川・珠洲市で70代男性死亡 | 石川県のニュース|MRO北陸放送 (1ページ)

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