転の声 尾崎世界観著 、 ‘They refused to let me go’(解雇拒否)
芥川賞候補となった、尾崎世界観さんの「転の声」を読んでみた。
- 転の声 (文春e-book)
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いま、ライブチケットは反射勢力(ダフ屋)を断ち切る意味ために、転売は厳しく禁止されている。しかしこの小説は、ライブチケットが転売されることでアーチストの価値が高まり、それを演出する会社を軸に、ファンとアーチストのやりとりがチャットで展開される。不思議な小説。
転売会社Rolling Ticketを運営する「転売ヤー」得ノ瀬券(エセケン)に、落ち目のバンドGICCO(ギッチョ)のボーカリスト以内右手がすがりつて復活を目指そうとする。
ボーカリストが声を出せなくなるという現実はあるだろう。かつて人気バンドだった彼らの復活を目論む過程で、音楽評論家の絵萌井あおを絡めて、哲学的な展開になってゆく。
コロカ渦で無観客を経験したミュージシャンたちのその後は明暗が分かれる。ライブとはいったいどういう存在なのか?観客はそこに何を求めるのか?無観客ライブは意味があるのか?など、究極のライブを突き詰めてたどりつくのが、無観客有料ライブ。
そのライブ会場はいったいどうなるか?というのがラストシーン。
チケットの売り買いがチャットで行われるのを、ミュージシャンが一喜一憂するシーンはどきどきする。われわれはバーチャルな世界でチケットの売れ行きもなにもかもリアルタイムで見ることができる。売れれば勝ち組、負ければ退場。そんな過酷な音楽業界にあって、チケットの価格がミュージシャンの価値を決めてゆくというドラマは、残酷な資本社会を照射しているように思える。
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ガーディアンのジャスティン・マッカリー氏の記事が連日読み応えがあって実に面白い。特派員の役割として、海外のニュースを駐在する国に提供することと、その国の実情を所属する報道機関を通じて世界に伝える両方の役割がある。ジャスティンの記事は、自国で意識しにくい内容を逆に可視化してくれている。
この記事は退職代行会社を通して、労働の硬直性と雇用主の傲慢な姿勢などが伝わる内容だ。いかにも日本らしい内容をストレートに記事にしている。
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