世界経済史講義 ④ 歩く影法師
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第10章 世界恐慌とアメリカ
ここまで13世紀に資本が生まれ16世紀に利子の概念が生じ、教会から法人へ、そして帝国主義の発達によって世界が急激に進化してきたことを学んできた。
しかし、行き過ぎた経済成長はどこかにひずみが生じさせる。
ここでケインズの師匠とも言えるマーシャルが登場する”Cool head but,warm heart”はあまりにも有名だが、彼は「経済学が貧しい人々の力にならなければならない」と問いた言葉をすっかり失われてしまったらしい。いまや経済学は金持ちをより儲けさせる道具になってしまったようだ。
第一次世界大戦は世界で大勢の死者を出したが、このあと無傷だったアメリカに資本が集まってくる。そして1922年から株式が異常に高騰し1929年に世界恐慌となる。マルクスが「資本論」で、”資本に資本家が操られる”と書いたのは、ルールを作った人間がルールに縛られる矛盾を示唆する。「神は資本であり、資本は神である」という言葉には、資本主義が「愚か者の合理的理論」であることを示すものだ。マルクスは過剰生産が恐慌を呼ぶことを予期していたのだ。
スミスは「重商主義を批判」したうえで「小さな政府」を唱え、世界恐慌のあとケインズは「有効需要政策」で「大きな政府」マクロ政策を推奨する。バブルを防ぐための金融政策が機能しないのは、貨幣がアヘンのようなものだからだとケインズは言う。貨幣は起業家の鎮静剤なのだ。
さらにケインズは、いずれゼロ金利社会がやってきて、経済問題が2030年頃に解決されるとも書いている。あと6年だ。そのとき世界は「定常状態」に戻る。すなわち、13世紀から始まった資本の原理が消滅するというのだ。
第11章 戦後の経済成長
社会主義と資本主義の違いは「所有権」に関する考え方だ。そして過去の戦争の多くはエネルギーの所有をめぐる争いだったことを振り返ると、矛盾に突き当たる。つまり、戦後復興が経済成長をもたらし、経済復興を戦勝国が脅威と感じたら、次は経済戦争に向かう可能性があるということだ。
貧しい国が急成長し、豊かな国が低成長に陥るという矛盾。
第12章 世界経済史から学ぶべきこと
水野和夫先生は、この対談の中で「定常状態」というキーワードを繰り返す。
長い歴史の中で、教会が強大な権力をにぎり、それに反発したプロテスタントの精神がヨーロッパ文明(十字軍)を組織させ、13世紀の資本が誕生するきっかけにつながったという。
15世紀から大航海時代、18世紀から産業革命などと平行して宗教革命により教会が解体されてゆく。イスラム教ではカネは使うもので貯蓄は悪、余ったカネは喜捨するもの、という思想と対立構造が生まれる。
この中で注目すべきは、ケインズがゼロ金利政策を予想していたというくだりだ。「ゼロ金利で資本家は安楽死してゆく」という説はいまだ実現には及んでいないものの、金利生活者(資本家)が必死に蓄えを増やそうとするのは、安楽死を避けるための悪あがきなのかもしれない。
「人間がいられない世界」という本著の最後のメッセージは、手厳しい。AI漬けによって人間は何も考えなくなる。資本家は安楽死を避けて貨幣愛を増長し、労働者はAIに依存し何も考えない。これらの蓄積は少子化へ向かう。
「マクベス」のセリフから
「人生は歩きまわる影法師、あわれな役者」
を紹介し、島田裕巳先生の言葉が最後を締めくくる。
幸せは自分で見つけて下さい。
おしまい
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