水木しげるロード 山陰旅⑱、「総員玉砕!」
境港の駅前から、赤いポストの上に鬼太郎が鎮座している。
その先には広場があって、なんと一反もめんのうんていがある。子どもたちが楽しんでいる。
鬼太郎のおやじや砂かけ婆など、よく知られたキャラが数え切れないほど並んでいる。
ねずみ男はほかの多くのキャラと比較にならないほど印象的だ。悪いヤツだが憎めない存在。
子泣き爺は徳島県山間部で言い伝えのある妖怪なのだそうだ。それぞれのキャラに詳しい背景があって面白い。
ぬりかべ (ゲゲゲの鬼太郎) にいたぞ。
水木しげるロードの終わり近くに記念館などがあって、横道にそれたところに百目がいた。実写の「悪魔くん」に出てくる百目は本当に怖かった。
この道を何度も行き来して懐かしさと当時の強さを思い出す。
妖怪の存在を怖いと思う気持ちと、妖怪がなぜ妖怪になったのかを知ると、さらに興味が広がる。水木しげる先生の生み出したキャラクターの豊富で幅広さに圧倒された。すごかった。
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水木しげる先生の経験と作品に込められたささやかな意思は、世界で起きている諍いに、同じ目線の意味をもたらすものだ。
東京・九段の戦傷病者史料館「しょうけい館」で、水木しげるさんの企画展が開かれている。水木さんは先の大戦で激戦地ラバウルに赴き、片腕を失いながらからくも生き延びた。「総員玉砕せよ!」は実体験を基にした戦記物の名作だ。戦争の愚かさが詰まっている。
▼敵襲で、ときに自決で、簡単に人が死ぬ。兵站(へいたん)は途切れ、病や飢えでも次々と命がついえる。「一体我々はなにしにこんなところで戦うのでしょうか」。末端の兵隊は素朴な疑問を抱かざるをえない。だが上官も回答を持ち合わせない。返事は「まあすし食う夢でもみて寝てくれ」なのだ。部隊は無謀な攻撃へ突き進んでゆく。
▼1年3カ月余のガザ地区での戦闘は、4万6千人を超す死者を出した。ハマスの奇襲とイスラエルの苛烈な報復がもたらした、あまりに巨大な市民の犠牲である。戦争の罪深さを改めて思うほかない。「一体人々はなぜ死ななければならなかったのか」。答えのない素朴な問いが、がれきの山々の間でこだまし続けるだろう。
▼停戦がきょう発効する。薄氷を割ることなく、さらに前へ進めるか。水木さんが旅立ったのは戦後70年を迎えた年だった。生き物が生きるのは宇宙の意志。「人為的にそれをさえぎるのは悪です」。作中人物の言葉に託して、水木さんは訴えていた。没後10年となる世界で、しかし悪はなお横行する。思いを継がねばと思う。
日経「春秋」
2025年1月19日









