平等についての小さな歴史 ③ 新植民地主義
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8、差別と戦う真の平等
これらを克服するには「偏見」との戦いが課題だ。教育や保健やアファーマティブ・アクションも完全とは言えない。ここはSDGSにも同じことが言える。少ししか持たない者による多くを与えるためには、家父長制と生産性第一主義と決別する必要がある。フランスでは宗教団体への非課税をやめるという考えもあるようだ。
9、新植民地主義からの脱却
われわれは見えない植民地制度に縛られている。かつて海賊が世界を支配しようとした歴史から何も進んでいない。支配される側もそれに甘んじてきた。
社会と国民国家を結ぶ方法はすでに限界にあって、植民地主義の名残りはタックスヘイブンなど、貿易自由化が不透明感を増している。地球規模で考えれば、見せかけの国際援助が気候変動対策に全く寄与していないのではないかと疑われている。
そこでピケティは、国家間の隔たりを少なくするための手段として、社会を「連邦国家」にすることで権力の集中を避け、真に民主的な連邦国家を築く方向へ導くことを提案している。ハンナ・アーレントの言葉を借りて「グローバル経済ではなく、グローバル政治を組み入れるべきだった」としている。ここは極めて難しい部分だ。
10、環境に配慮した多民族矯正の民主社会主義へ
世界の潮流を見ると、これからの社会はまさに民主主義の闘争となるだろう。すでに今年、民主主義は消えたとも言われている。
ここでピケティは「中国社会主義」を開放的ではないが学べるところもあると言っている。完全デジタル専制体制とも言われる中国の制度を否定しつつ、連邦国家の形をなぞらえる。社会主義への転換には累進税の拡大が必要で、経済の脱商品化を目指し、お金のかからない選挙と報道制度によって新たな国家を作り上げてゆくべきだと唱えている。
極めて広がりのある本だが、歴史を振り返りつつ、未来を考えるうえで、やはり資本主義からの決別を避けることはできないようだ。どんな制度も中央集権化する、という概念は、このブログでも紹介した「パンクの系譜学」にも重なり合う。
10年前に読んだ「ピケティ入門」の中で池田信夫先生がアベノミクスを徹底批判していたことを思い出すが、ピケティの著書で池田先生が言わんとしていたことは見事に的中し、日本の経済も社会も全く良い方向に導くことがなかったことが立証されている。
あわせて読むととてもわかり易いかもしれない。
いずれにせよ、このまま社会はますます悪い方向に向かうだろう。ピケティの示す再配分の方法が実現できたとしても、冷戦後の新自由主義を押し戻す力には及ばないだろう。制度を変えるために、大胆な変革が必要だ。それは今ある制度を見直す「改革」という半端な対処法ではなく、すべてをリセットしてやり直す「革新」の意識を国民がもって、国民を騙そうとする国家と対峙できる知識を持つべきだとこの本は言っていると思う。
おしまい
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