ゲーテはすべてを言った 鈴木結生著 芥川賞

ゲーテはすべてを言った
ゲーテはすべてを言った
朝日新聞出版
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著者の鈴木結生さんは23歳、まだ在学中の学生だ。大江健三郎をこよなく愛し、大江が亡くなったとき2日間泣きはらしたという誠実さ。奇しくも大江が「死者の奢り」芥川賞を受賞したときと同じ23歳で鈴木さんも受賞した。受賞コメントに「仏教は物語を作ることが嘘をつく罪にあたる」という”源氏供養”を紹介していて、知性の塊のような著者の情報量に圧倒された。正直言って自分の知識では追いつける作品ではなかった。


高名なゲーテ学者、博把統一は、一家団欒のディナーで、彼の知らないゲーテの名言と出会う。ティー・バッグのタグに書かれたその言葉を求めて、膨大な原典を読み漁り、長年の研究生活の記憶を辿るが……。ひとつの言葉を巡る統一の旅は、創作とは何か、学問とは何か、という深遠な問いを投げかけながら、読者を思いがけない明るみへ誘う。

若き才能が描き出す、アカデミック冒険譚! (朝日新聞出版)



「愛はすべてを混乱させることなく、混ぜ合わせる」(ゲーテ)


ティーバッグに書いてある哲学的なメッセージを巡る文学家族の姿を描く。教授である父親の想像を超える娘徳歌の反応が魅力的だ。果たしてゲーテが本当にこれらの言葉を発したか。発したとして、どういう趣旨の意図があったのか。謎解きのような展開にリードされる。


カラッとした家族の話しだが、後半で娘の徳歌が涙を流すシーンがある。「すべてよし!」とする大江健三郎からの引用に、なぜ徳歌は涙を流すのか。引用の意味を探る。


しかし、主人公の統一の同僚が捏造疑惑で騒ぎとなる。引用と捏造の境。このブログもそうだが、世の中にあるものになにひとつオリジナルなものはない。なにかの引用がほとんどすべてだ。それを自らの言葉にすると捏造、盗用となる。


今回の芥川賞受賞作に共通する映画からの引用は興味深い。本作でもチャップリンの言葉や、多くの映画からのエピソードやオマージュが重なり合う。すべてを言ったというゲーテをとティーバッグの名言を遡るため統一はフランクフルトに向かう。そして最後の最後で愛と祈りにたどり着くのだ。


なんとも難しい内容だった。ドラマとしては大きな変化を見ない。しかし人物の内面にある知性がところどころで溢れ出す内容に、自らの知識の浅はかさを思い知る作品となった。辛かった。



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