人間回復の経済学 ① 神野直彦著

dalichoko(ダリチョコ)

神野直彦先生の著書を3回にわたってご紹介します。これは先ごろお亡くなりになった森永卓郎さんが推薦していた本です。20年以上前の本ですが、とても読み応えがあって、現代にも当てはまる名著です。


人間回復の経済学 (岩波新書)
人間回復の経済学 (岩波新書)
岩波書店
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少し前に読んだ『食糧危機と財務省』という著書の中で、今は亡き森永卓郎さんが紹介していた一冊がある。

東京大学を卒業後、なんと自動車の組立工から社会人生活を始めた財政学者・神野直彦先生が、2002年に出版した名著『人間回復の経済学』である。


神野先生によれば、タイトルはジョセフ・バージルによる1969年の書『人間回復の経“営”学』から着想を得たものだという。本書は、当時進行していたいわゆる「小泉構造改革」に異議を唱える意図で書かれたものだ。


また、スウェーデンの政治学者スヴェン・スタインモが唱えた「アメリカン・スタンダードが社会に亀裂を生じさせた」とする説も紹介され、日本の政治・経済と照らし合わせながら展開されている。


今読み返しても示唆に富んだ、まさに名著である。



1.経済のための人間か、人間のための経済か


神野氏は、人間を「ホモ・エコノミクス(経済人)」としてではなく、「ホモ・サピエンス(知恵ある人)」として捉え直そうとする。

つまり、人間とはチャップリンの『モダン・タイムス』のように経済の歯車として組み込まれる機械ではない、という主張である。


神野氏は経済をこう定義する。


経済とは、自然を人間にとっての有用物へと変換し(=労働)、それを人々に分配する仕組みである。


そして、それが可能なのは人間が「ホモ・サピエンス」であるからだと説く。


政治・経済・社会という三つのサブシステムにおいて、本来、政治と社会の領域は「金儲け」に関与すべきではない。

人間の行動の原動力は、「利益」ではなく「夢」や「希望」であるべきなのだ――というのが著者の強い信念である。


2.「失われた10年」の悲劇、そしてその先へ


本書が出版されたのは2002年。

あれから20年以上が過ぎた今、私たちは「失われた10年」どころか、「失われた30年」、あるいは「失われた40年」とも呼ばれる時代を生きている。


つまり、この本が出てからも、私たちは20年以上にわたって無策を続けてきたということになる。


1980年代の中曽根政権に端を発する「構造改革」は、結果的に多くの国民を苦しめ、「いじめ社会」のような空気を生み出す原因となった。

そして小泉内閣がこの路線を引き継ぎ、日本は「決定的な破局」に向けてハンドルを切った――と著者は指摘している。


民主主義とは、民(統治される者)が主(支配する者)になること。


「demo(民)」と「cracy(支配)」の語源については、自著『パンクの系譜学』でもゴドウィンの説を紹介したが、これは民主主義の原点を再確認する上でも重要な視点である。


「小さな政府」を徹底して推進したのはイギリスのマーガレット・サッチャーだった。

当時スタグフレーションに苦しんでいたイギリスは、景気回復のためにケインズ的福祉国家を徹底的に批判し、その存在感を示した。

結果として景気は回復したものの、サッチャーは「人頭税」導入をきっかけに退場へと追い込まれる。


歴史は教訓を語らない。

しかし、歴史から教訓を学ばない者は歴史によって断罪される。


サッチャーはどうやらこの教訓を見落としていたようだ。

そして、彼女が推進した新自由主義経済はレーガンを経て中曽根へと伝播し、世界中に格差を広げた。


その結果、共感や協力の精神は失われ、殺伐とした社会が築かれ、犯罪の増加や孤立の拡大へとつながった――と神野氏は警告する。


国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係 (講談社+α新書 860-2C)
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講談社


つづく・・・


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