「顔を捨てた男 」──見た目を変えても、自分は変わるのか?
「顔を捨てる」──そんな決断、想像できますか?
どんな映画かといえば、一見“整形の果ての成功”のようでいて、まったくそう単純ではありません。
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顔を捨てた男(KINENOTE)
先ごろ観た『サブスタンス』もそうでしたが、この作品には『美女と野獣』や『ジョーカー』のように、「見た目」と「人間の本質」に切り込むテーマが潜んでいます。そしてなにより、デヴィッド・リンチの『エレファント・マン』が本作に与えた影響は非常に大きいと感じました。
主人公は、自分の容姿に強いコンプレックスを持つ内向的な男。ところがある日、外科手術によってハンサムになります(演じるのは『アプレンティス』でドナルド・トランプ役を務めたセバスチャン・スタン)。過去の自分を捨て、性格まで変わってしまった彼は、自信にあふれた“新しい人間”として再出発します。
──しかし、物語はそれだけで終わりません。
映画史を振り返れば、「過去を捨てる」というテーマはさまざまな作品で描かれてきました。たとえばヒッチコックの『めまい』や『フェイス/オフ』、アスガー・ファルハディの『ある過去の行方』、そして広義には『ベニスに死す』もまた、外見や老いと結びついた“過去の消去”の物語と言えるかもしれません。
本作の鍵となるのは、主人公の前に現れる“昔の自分”のような男です。かつてのように醜い顔をしているにもかかわらず、彼は知的で、ユーモアにあふれ、周囲の人々に愛される存在。主人公は、美しくなったはずの自分が、人間的な魅力では劣っていることに気づかされていきます。
この対比こそが、映画の最大の見どころです。
見た目を変えたのに、自信を持てたはずなのに、なぜ彼の方が愛されるのか?──見た目の「価値」とは何なのか? この映画は深い問いを観客に投げかけてきます。
『エレファント・マン』のジョン・メリック──見世物にされながらも、純粋で誠実な心を持っていた彼の姿が、ふと脳裏をよぎります。人は本当に“外見”で判断されるのか、それとも“それ以上のもの”で愛されるのか。
せっかく自信を得た主人公が、見た目ではない「魅力」に押され、次第に狂気に堕ちていくさまを描く本作。私たちが日々、鏡で確認する「自分の顔」は、果たしてどれだけの意味を持っているのでしょうか。
旅先で金髪で高身長の人々に囲まれて歩いていると、自分の姿を客観的に見てしまうことがあります。そんな時、この映画が問いかけてくるのです──「あなたの本当のアイデンティティとは何か?」
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