五輪書 「水のように、空のように」

- 五輪書 (講談社学術文庫)
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1886年に刊行され、今年の4月には実に77刷目の増刷――。これほど長く読み継がれている名著はそう多くありません。「五輪書」については数多くの解説や翻訳が出ていますが、今回は鎌田茂雄先生の訳を手に取りました。
結論から言えば、この書に記されたことを私たちがすべて真似ることは到底できません。孤高の剣士・宮本武蔵はただ“勝つ”ためだけに剣の道を極めました。一切の甘えを断ち切り、命を削って残した「五輪書」には、現代を生きる私たちにも通じるヒントが潜んでいます。
巌流島の戦いから姿を消した武蔵が、28年後に熊本の雲巌寺に現れ、死の7日前に記した「独行道」。そこには彼が生涯で会得した“実利主義”が凝縮されています。
1、こだわりを捨てる
2、理論より実践
3、勝利だけを目的とする
4、応用と柔軟性
これらは武蔵の信念を象徴するものです。「道においては氏をいとはずおもう」――血筋や形式にとらわれず、ただ実を取る。その徹底ぶりこそが、武蔵の真骨頂でしょう。
「五輪書」は、五つの巻を通じて勝利の心得を説いています。
◆地之巻
「仏神は貴し、仏神をたのまず」。神仏は尊いが、頼ってはいけない。ここに強く共感します。世界では宗教対立が絶えず、日本でも元首相暗殺の背景に宗教問題がありました。武蔵は「万事において我に師匠なし」と言い切ります。師を持てばそこに甘えが生じる――弱さにつながるからです。
人に勝つとは己に勝つこと。己の欲を抑え、自らの内に絶対に負けない部分を見つけること。武蔵が説く「空の道」とは、形にとらわれず無限に応用できる生き方を意味します。
◆水の巻
ブルース・リーの「Be water(水になれ)」の思想の背景には、この巻の影響があるといわれます。
兵法の心得として、心を一瞬も止めてはならない。無心とは平常心であり、動揺を排し、自在に構えることです。武蔵は繰り返し「形にとらわれるな」と説きます。心を自在に働かせれば、相手の心さえ読み取り、状況を操ることができる――。
ここに、武蔵の兵法がただの剣術ではなく、人間理解そのものであることが見えてきます。
――後編では「火」「風」「空」の巻へと進んでいきます。
つづく・・・・
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