立川談慶師匠『教養としての落語』書評 「与太郎は馬鹿じゃない?」
落語の世界は奥が深い!与太郎は本当に馬鹿じゃない? 江戸庶民の知恵と笑いの秘密とは? 落語を知れば、日常の見方まで変わる――立川談慶師匠の最新作を読んで、その面白さと教養のヒントを手に入れましょう。
立川談慶師匠は、慶応大学卒業後、ワコールでの社会人経験もある知性派の落語家です。本書『教養としての落語』は、そんな師匠ならではの視点で、落語の歴史や人間洞察をわかりやすく解説しています。落語初心者でも自然に読み進められる一冊です。
七代目立川談志が「落語とは人間の業の肯定だ」と語ったように、落語は人間の弱さや愚かさを笑いながら肯定する芸です。その起源は諸説ありますが、大阪の曽呂利新左衛門にまで遡り、江戸へ中心が移った後も庶民の間で人気を博しました。上方落語が戦後、絶滅の危機にあった中で念願の「繁昌亭」が開業したのは、戦後60年も経ってからのことでした。
本書で特に印象的だったのは、談志の言葉の引用です。「与太郎は馬鹿ではない」という一文から、与太郎というキャラクターが単なるお笑い役ではなく、哲学的で愛される存在であったことがわかります。また、談志の「すべてを疑え」という思想も、現代に通じる警句として響きます。
落語は庶民の芸であり、支配される側の知恵や処世術を教えるものでもありました。井上ひさしの『不忠臣蔵』の紹介にもあるように、上に従うだけではなく、巧みに生き抜く術を学ぶ文化として発展してきたのです。江戸の狭い町に多くの人々が暮らしながらも大きな混乱が起きなかった背景には、「見てみぬふり」「聞こえないふり」という庶民の知恵があったと師匠は指摘します。
当時の大都市人口(推計)
・ロンドン:約80万人(18世紀半ば)
・パリ:約60万人
・北京:60〜70万人
・江戸:100万人(参勤交代制度で全国の大名が家臣団ごと江戸に常駐)
また、本書では落語と海外ジョークの比較も興味深いテーマです。アメリカやフランスのジョークと落語の不倫ネタや庶民のユーモアを比べると、文化による笑いの違いと共通点の両方が見えてきます。
経済学部卒の談慶師匠ならではの視点として、江戸時代の300年ほぼゼロ成長という経済史の話もあり、落語をビジネスや現代社会の教養として活用する意義も提示されています。落語をただの娯楽としてではなく、知識や教養の源泉として楽しめる一冊です。
「経済学部出身の談慶師匠らしく、江戸時代の“300年ゼロ成長”という言い回しを紹介しています。ただ実際には、前半は人口も経済も伸び、後半は持続可能な形で安定していたとも言われます。“成長しない社会”が必ずしも不幸ではない――そんな視点も落語的かもしれません。」
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