「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」 白いパイプが語るもの
「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」(KINENOTE)
ウェス・アンダーソンの作品は、いつものように私の理解を超えてきます。
そこで今回は、新作を踏まえて彼の過去作品を振り返りながら考えてみることにしました。すべての作品を見ているわけではありませんが、並べてみると共通点が見えてきます。
◆奇才ヘンリー・シュガーの物語 マネーの恐怖
◆アステロイド・シティ ハリウッド批判
◆フレンチ・ディスパッチ フェイクニュース
◆犬ヶ島 パンデミック
◆グランド・ブダペスト・ホテル 戦争
◆ムーンライズ・キングダム 子どもの孤独
◆ファンタスティック Mr.FOX 中年の危機と孤独
ほかにもプロデュース作品で、本作の脚本を担当したノア・バームバックの「イカとクジラ」やボグダノヴィッチの「マイ・ファニー・レディ」なども含めてこうして並べると、彼の共通した視点が時代を先取りしていることがわかります。
アンダーソンは、両親の離婚を経験し、大学では哲学を学びました。このとき知り合ったオーウェン・ウィルソンとともに映画の世界へ深く入り込んでいったのです。彼は常に世の中の動きを巧みに捉えながら、自身の形式的で独特な世界観へと観客を巻き込みます。その手法は今回の新作でも健在であり、彼自身の子ども時代の孤独感などが巧みに組み込まれ、より複雑に組み立てられています。
物語は、大富豪が修道女の娘に事業を継承させようとするものです。しかし、その前にはギャンブル性の高いビジネスの敵が立ちはだかります。あらゆるものをマネーで換算する社会とは無縁に生きてきた娘に、資本主義の論理を叩き込もうとする父。その構図は現代社会そのものを象徴しているようです。
特に印象的なのは、娘リーゼルが常に口にしている白いパイプです。これは「世俗的なビジネス社会を生き抜くには正気ではいられない」というメッセージを象徴しているのではないでしょうか。
さらに映画の最後には「レバノン」というキーワードがちらつきます。宗教対立や経済危機、内戦に揺れる国を示唆することで、荒れる世界の中でも人々が生きる妥協点を模索せざるを得ない現実を描いているように思えます。
結論として、本作はやはりシュールです。しかしそのシュールさの奥に、現代社会の不条理と人間の営みの矛盾が確かに刻まれているのです。
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