赤いマフラーが問いかけるもの──『ファーストレディ〜Voice of Seoul』を観て
もしひとつだけ驚くべき点を挙げるとすれば、それはこのドキュメンタリーが「非常戒厳」発令直後に配信されたことではないでしょうか。
作品全体を通して強く感じるのは、この映画が単なる記録ではなく、明確に政権を崩壊させることを狙った極めて恣意的なドキュメンタリーだということです。
作中に登場するニュースサイト「ソウルの声」は、あらゆる手段を使って当時の大統領夫人、キム・ゴンヒ氏の権力欲を暴き出していきます。大統領以上に彼女が強大な権力を握っていたことが、次第に明らかになっていくのです。
株価操作、経歴詐称、高級バッグの収賄……数々の不正をめぐり、取材陣や側近が罠を仕掛けるように証拠を押さえていく。とりわけキム・ゴンヒ氏自身の音声データは衝撃的です。彼女の自己顕示欲の強さが、声の調子から生々しく伝わってきます。
ラストではパートカラーを用い、大勢の民衆の首にかけられた赤いマフラーだけを強調したモノクロ映像で締めくくられます。その表現は「シンドラーのリスト」を想起させ、強い余韻を残します。
見終えて私が考えたのは二点です。
ひとつは、韓国社会における権力者の腐敗の根深さと、それを暴こうとするメディアの強さ。もうひとつは、なぜ日本では同じことが起きないのか、という疑問です。
トランプ政権の復活を含め、世界が権力に寄り添い寛容さを失っている今、私たちはこの映画から学ぶべきではないでしょうか。韓国には「ソウルの声」のように市民の側に立つ報道が存在します。日本にも、少なくともひとつはそうしたメディアがあっていいのではないか──そう強く感じました。
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