日銀漂流①ー日銀の独立性

- ドキュメント 日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀
- 岩波書店
- Digital Ebook Purchas
◆『日銀の独立性とは何だったのか──西野智彦「日銀漂流」を読んで』
ある雑誌で著者・西野智彦さんの記事を読み、興味を抱いて本書を図書館で借りてみました。読み始めるとすぐに、ニュースで伝えられる日銀の姿とはまったく違う“リアルで汗臭い現場の歴史”が描かれていることに驚かされます。
冒頭では、三重野康総裁が荀子の「窮して苦しまず、憂えて意衰えず」を引用し、性悪説を基盤にした姿勢を示します。この場面を起点に、本書は「日銀法改正」をめぐる政治と金融のドラマを描いていきます。テーマは明確で、日銀の独立性は本当に守られたのかという点です。
第一章 「松下時代」──自由市場と独立性のはざまで
日銀法改正の中心人物の一人が、のちの総裁・福井俊彦氏です。自由主義経済の信奉者であり、橋本政権が掲げた「日本版ビッグバン」の流れの中で、日銀の独立性と市場の中立性をどう確保するかが議論になります。
この時期には大蔵省と日銀の対立、政治家による“恫喝まがい”の介入など、いかにも日本らしい古い権力構造がむき出しになります。そしてバブル崩壊後の混乱が一気に深刻化し、三洋証券、拓銀、山一證券といった金融機関が相次いで倒れ、銀行は貸し渋り・貸し剥がしへと態度を一変させました。まさに地獄の時代だったと思います。
第二章 速水時代──スキャンダルと迷走の暗黒期
ここから本書のトーンはさらに混迷を深めます。証券課長の逮捕、理事の自殺、過剰接待による蔵相辞任など、スキャンダルが次々に政財界を揺さぶります。そしてついには長銀が破綻し、国有化へと追い込まれます。
この頃にはデフレがじわじわと進行し、速水総裁はゼロ金利政策の検討に踏み切ります。その議論の中には、現総裁である植田和男氏も登場し、「時間軸効果」をめぐる議論が交わされます。しかし株価は下がり続け、市場は冷え込んでいきます。
当時、クルーグマンが日銀を「無責任であることを確信させる約束」と痛烈に批判した記事は象徴的です。
震源となったスキャンダルにより、ホープと目されていた福井俊彦氏は辞任することになり、敬虔なクリスチャンで一途だった速水総裁のリーダーシップも低下します。結果として日銀の信用は大きく揺らぎ、政権支持率も株価も下落していきました。
小泉・竹中政権の登場──あの時代は転換点だったのか
あらためて振り返ると、この混乱の先に登場した小泉・竹中政権こそ、日本経済の大きな分岐点だったように思います。中曽根政権から続いてきたアメリカ追従の流れが、ここでいっそう強化されました。
竹中平蔵氏の登場によって“市場原理主義”が一気に加速し、政治と金融の関係がよりいびつな方向へねじれていきました。その影響は、今も日本社会に根強く残っていると感じます。
しかし当時は、こうした変化の危うさに気づく人は少数派でした。むしろ歓迎ムードさえ漂っていたのが現実です。
本書を読むと、その点がいちばん怖く、そしていちばん示唆に富んでいると思います。
★
★

