「拾ったのは金ではない――歌舞伎座『芝浜革財布』」
歌舞伎座は、築地から銀座に向かう途中、いつも見上げているだけの建物でした。
その中に、この日初めて足を踏み入れることが叶いました。
きっかけは「芝浜」です。去年、山田洋次監督演出の「文七元結物語」を見逃して後悔していましたが、今年は「芝浜革財布」で中村獅童さんと寺島しのぶさんが再び共演するというので、あわててチケットを予約したのです。
この日の「十二月大歌舞伎」は三部構成で、第二部の「丸橋忠弥」と「芝浜革財布」を鑑賞しました。
尾上松緑さんの「丸橋忠弥」も「芝浜」同様”借金”の話です。
そして目的の「芝浜革財布」。
落語の「芝浜」は何度か聞きましたが、その情景が舞台でリアルに再現されているのを見て胸が高まります。緞帳が開く前、静かなさざなみが聞こえ、大きな舞台が広がるとそこに主人公(中村獅童さん)が現れます。もうここだけで胸がいっぱい。
最後は、妻が隠してきた秘密が明かされて感動的なラストに進みますが、落語とは違うオチでした。落語だとここで主人公の勝は酒を飲まない。ところが歌舞伎では本人も妻も酒を交わし、喧嘩した相手に拾った金を寄付し、
「あの財布で、拾ったのは金じゃございません。あなたの心でございます。」
と妻に言わせて終わります。なんという感動でしょう。
この終わりは多少意見の分かれるところかもしれません。
しかし落語の感動と歌舞伎の実演がもたらす感動は、そもそも同じ土俵では測れないのだと思います。妻は金よりももっと大事なものが戻ってきたことを客席に向かって提示する歌舞伎の「芝浜」も、冷静で厳しい結末で心を揺さぶりました。
くどくなりましたが、何しろ60年以上生きてきて、初めて入った歌舞伎座で見た「芝浜」は格別で、生涯の思い出となるものでした。
途中で入る掛け声や、万雷の拍手、子役の登場でほっこりさせる場面など、ありとあらゆるものが新鮮で心に残りました。
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