宴のあと　三島由紀夫☆

2022/05/10 11:00

三島由紀夫の本がたまたま家に置いてあったので、暇つぶしに読み始めたら面白くて面白くて、一気読みしてしまった。すっごく面白かった。
『宴のあと』は三島由紀夫が１９６０年に中央公論で発表した作品。三島由紀夫３５歳の作品。政治家と料亭の女将の話し。ある意味で老いらくの恋。

政治家の一線から退いた政治家にほろりと惚れ込んだ女将が結ばれてゆく過程と、夫以上に政治に興味を示し、夫に無断で隠れた選挙活動に生きがいを見出してゆく福沢かず。この二人の物語が、実在の政治家の話しと重なることで、日本で初めてプライバシー訴訟にまで発展したらしい。成瀬巳喜男で映画化も予定されていたが、裁判中とあって幻の作品となってしまった。

新潟の田舎で生まれたかずは、両親を亡くし親戚をたらい回しにされて、どん底から料亭の女将にのし上がるまでの物語なら、山崎豊子に任せておけばよくて、こちらはそんな情熱的で強い女性が、一度は一線から退いた政治家をいまいちど表舞台に立たせようと努力する、影の選挙戦が中心に描かれる。いわば宴とは選挙であり政治。野党側で立候補するかずの夫と、料亭の贔屓でもある与党側の重鎮の戦いは、最後に燃え尽きるまで進んでゆく。
結局、与党の重鎮による汚い手段によって夫は選挙に敗れる。そして重鎮が料亭を訪れたとき、かずはその老人をコテンパンに罵りこきおろす。重鎮は「そうかい、そうかい」と優しくかずに擦り寄り涙を流す。このシーンがとても印象的だ。成瀬巳喜男だったらこの人物を誰に演じさせるだろう。溝口健二だったら間違いなく進藤英太郎がこの役、永山元亀の役を演じていたはずだ。ちなみに成瀬はかずの役を山本富士子に決めていたそうだ。
ほかにもこの主人公の印象的なシーンが数々描かれるのだが、この映画は女性の男性的な部分が突出して見事に描かれる。当時、１９５０年代後半を思えば、女性が男性勝りの選挙活動を展開するなど想像もできなかったのではないか。
三島はこの作品の１０年後に陸自の講堂で割腹自殺をして死んでゆくのだが、政治の世界と愛情が厳しく混濁する社会の見えざる面を、若干３５歳の三島が小説としたことはいまもって驚きだ。三島がどれほどスターであり天才だったかたよく伝わる作品だ。
いまでこそ女性が政治のトップになって表舞台で活躍する時代ではあるが、１９５０年代にこのような現実を測ったように小説家した三島の手腕をこそ評価すべき作品だ。
そしてあらためて事実は小説より奇なりの所以を忍ばせる。
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あらすじはこちら。

保守党御用達の高級料亭「雪後庵」を営む女将・福沢かづは、独身ながら50代を迎え、人生を達観した気持ちで日々過ごしていた。ある日、かづは客として店に来た革新党の顧問で元大臣・野口雄賢（ゆうけん）に出会い、その理想家肌で気高い無骨さに魅かれていく。野口は妻を亡くし独身だった。かづと野口は何度か食事を重ね、奈良の御水取りにも旅し、自然の流れで結婚することとなった。
野口は、革新党から東京都知事選に立候補することになった。かづは革新党の選挙参謀の山崎素一を腹心としながら、大衆の心をつかむような、金を散財する選挙運動に邁進する。貯めた銀行預金が不足したときには、雪後庵を抵当にかけても野口の選挙を支援しようとしていた。しかし、その土着的なやり方を野口に激しく叱責された。そして、雪後庵を閉鎖しないなら離婚するとまで野口に言い渡された。
結局、都知事選は、ライバルの保守党による中傷文書のばらまきや汚い妨害工作に合い、野口が敗北した。そして野口は政治から離れる決意をし、かづと2人でじじばばのように暮す隠遁生活をはじめようと提案する。しかし、かづは精魂こめて金を使った自分よりも、汚いやり方で金を使った相手が勝ったことが許せず、宴のあとのような敗北の空虚に耐えられなかった。かづは保守党の記念碑的人物・沢村尹（いん）に頼み、この償いに、旧知の間柄でもあった保守党の永山元亀（げんき）らの金で雪後庵を再開させようと画策した。
このことを知った野口は、かづに離縁を突きつけた。そして、かづは野口家の墓に入る夢を捨て、雪後庵を再開することの方を選び、野口と別れることを決意した。
wikipediaより

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