深海の街ツアー　松任谷由実☆

2022/06/08 12:00

そぼ降る雨の中、東京国際フォーラムへ松任谷由実「深海の街」ツアーに参加。セトリはこちら。

チケットは電子チケット。本人以外購入できない。１時間以上前から列に並び、開演１時間前に入場。２階のさらに上の最後列近く。

急な階段を上りステージを見下ろす。そのあまりの遠さに驚く。この後、客席につくお客さんの多くが、この急な階段でつまずいていた。観客の高齢化も著しいということだ。

全員にフェイスシールドが配られ、コロナ対策は万全だ。しかし自分のようにメガネをかけている者にとってはかなりうっとうしい。見えにくいし邪魔だ。会場には音楽が流れ、深海にいるような水の音が聞こえる。そして予定時間と同時の場内が暗くなりステージが始まる。逆行の眩しい光の中にユーミンが登場。

ユーミンのライブには何度か参加したが、この曲のオープニングは初めてだ。もちろんニューアルバム「深海の街」からの楽曲を中心とするライブ構成なのだが、過去のどのライブよりも暗く深みのあるステージであった。セットリストも極めて意味深。

輝きは戻らない
わたしが今死んでも

この曲だけでなく、今回のステージから繰り出される曲の数々に生命の重みと儚さが滲む。
２曲めもライブで聞くのは初めてではないか。

みんなここに来て
過ぎた時を見せて
深まる夜の静寂へ　連れてって

ユーミンが最後のMCでも強調していたとおり、かつてなくこのパンデミックの中で、大勢の人々が傷ついた。「世界が海に沈んでいくのが見えた」と語るとおり、このアルバムの世界観には間違いなくコロナという現実が織り込まれている。そしてユーミンは「歴史のページを歩くようだ。」ともいっていて、２１世紀がこのような時代になることを誰も予想しなかったことを印象として語っている。

バラード中心の楽曲から、定番の「カンナ８号線」などで盛り上げつつ、新作からの曲を解き放つ。

誰かやさしく私の肩を抱いてくれたら
どこまでも遠いところへ歩いてゆけそう

高いあの窓で　あの子は死ぬ前も
空を見ていたの　今はわからない

深海に沈みゆく人類と死。その現実を見据えつつ、心情を連ねる。そして最後に、

よどみない浮世の流れ
とびこめぬ弱さ責めつつ
けれど傷つく
こころを持ち続けたい

「時のないホテル」の最後を締めくくるこの曲がリリースされたのは１９８０年。４０年以上前に重ねた意識がいま深海に深く沈められてゆく。このライブは紛れもなくユーミンと同じ船に乗ったクルーとしてスタッフと観客を誘うものだ。アンコール前の曲の終わりで、我々は静かに海の底に誘われてゆくようだ。深く深く。そしてそれが儚い夢であることを祈るようなドラマ。しかし、観客の拍手に呼ばれてアンコールに応じてくれたこの曲が本当の最後のメッセージ。