どん底から羽ばたく少女『バード ここから羽ばたく』
「バード ここから羽ばたく」(KINENOTE)
少女が橋から空を見上げます。制服姿の少女ふたりが彼女の後ろを通り過ぎ、そこに一羽のカモメが現れてじっと彼女を見つめます。美しい目をした少女、ベイリー。
この貧しいベイリーの生活が、アンドレア・アーノルド監督自身の実体験に基づくと聞くと、思わず背筋が寒くなります。父親は相談もなく子連れの継母を家に連れてきて、出ていった母親を訪ねれば、別の男とベッドを共にしている。その男は逆上してベイリーに牙をむく――。
映画としてはとてもつかみどころがなく、決して心地よい作品ではありません。カメラは始終ぶれて落ち着かず、スラムの街からは悪臭が漂ってくるかのようです。いわゆるゴミ屋敷のような空間が画面を支配します。
そんな生活のどん底にいるベイリーの前に、バードという青年が現れます。彼は突如として鳥になり羽ばたき、ベイリーを助ける存在となります。しかしバードもまた、親に捨てられた過去を抱えていました。彼の父を訪ねて、ベイリーと妹や弟とともに海へ向かうものの、再会した父親は冷たく彼を突き放します。
ベイリーもバードも傷を抱えながら、次第に互いを理解し合います。そして父と継母の結婚式という最悪の場面で、バードはベイリーのもとに現れ、彼女を強く抱きしめます。この衝撃的なラストに胸を撃ち抜かれました。まさに圧倒的な結末です。
なるほど、冒頭からベイリーの眼差しをカメラが意識して追い続ける理由は、このラストシーンのためにあったのだと納得します。
昨年ちょうど同じ頃に観たトマ・カイエ監督の『動物界』を思い出しました。わずかに重なる部分もありますが、この映画の本質はまったく別のところにありそうです。
ベイリーが強く生き抜くために、バードはどのような存在だったのか? 彼は本当に存在したのか? ファンタジーとしてもさまざまに考えさせられる作品でした。
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