日銀漂流③ー続く漂流

- ドキュメント 日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀
- 岩波書店
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第五章 黒田時代──巨大な金融実験と、続いた“漂流”
この本では決定的な記述こそありませんが、どう考えても黒田東彦総裁の就任は政府主導の人事だったと読み取れます。独立性を目指したはずの日銀法の精神からすれば、皮肉にも、この四半世紀はタイトルのとおり「漂流」し続けた期間だったと言えるのではないでしょうか。
ここからは、日本を大きく変質させた安倍政権の時代に入ります。あまり辛辣な言葉を重ねたくはありませんが、少なくとも日銀の視点から言えば、「黒田バズーカ」は最終的に不発に終わりました。
それでも黒田総裁は、ゼロ金利から一気に“マイナス金利”へと踏み込み、前例のない金融政策を次々と打ち出しました。黒田氏の狙いは市場と国民のマインドを膨張させることでしたが、確かに市場には一定の効果があったものの、実体経済を回復させるまでには至りませんでした。
その後、コロナという大きな逆風が吹きましたが、黒田総裁が掲げた2%の物価目標は先送りされ続けました。結局、2期10年にわたる長期政権の末にも、日本経済は漂流を続けたままでした。
著者の西野智彦さんは、コロナショック後の安倍首相交代期を総括し、黒田総裁の時代を「安倍氏のショーアップ要請に応じた期間」と位置づけています。後任の菅義偉政権に至っては「株高」だけを追い求めたという評価で、黒田総裁が退任時に残した「日銀の独立などあり得ない」という言葉は、あまりに重く響きます。中央銀行の本質を考えれば、これは深刻な事態です。
そして漂流は、いまもなお続いています。
この本が書かれた2020年から5年が経過しても、日本経済は大きく上向いていません。植田総裁の下で日銀の独立性がやや回復している感もありますが、実際には政府とアメリカの圧力から完全には自由ではないように見えます。
読み終えて改めて痛感するのは、この国の政治も官僚も、とてもまともとは言えない現実です。
とりわけ経済政策に関しては、“ザイム真理教”とも呼ぶべき強固な財政マインドに支配され、それを跳ね返す力がどこにも存在していません。
その意味で、利上げに踏み切った植田総裁の今後も、決して安定した道とは言えないでしょう。
過去の日本が犯してきた金融と政治の愚かさを学べば学ぶほど、この国の未来はますます暗い影を帯びて見えてしまいます。