ヒンド・ラジャブの声「電話の向こうの戦争」

この映画のことを知ったのは、今年の3月です。町山智浩さんがラジオで、アカデミー賞にノミネートされたこの映画を紹介していました。
その後、8月20日、BBCの記事で「イスラエル軍がラジャブさんの乗った車への発砲を認め、刑事捜査を開始した」と報じられました。事件から2年以上が経った今になって、事態がまた動き始めていることをうかがわせます。
このようなドキュメンタリードラマが、果たして将来どれだけ記憶に残るのかはわかりません。しかし、今という時代を記録する、極めて貴重な作品だと思います。
内容はこうです。
イスラエルがガザを攻撃する中、パレスチナ赤新月社の緊急センターに、子どもから電話がかかってきます。車の中に取り残された5歳のヒンド・ラジャブさん。その電話で実際に記録された彼女の声を使って、ドラマは進行していきます。
救急車なら8分ほどで到着できる場所です。しかし戦闘中に救急車を出動させるには、さまざまな許可が必要になります。たった8分の距離に救急車を向かわせるために、何十時間もかけて調整しなければならない。
電話を受ける者と、出動の調整をする者との対立。現場から聞こえてくる銃声。そして、刻一刻と過ぎていく時間。あらゆることが「現実の時間」として進んでいきます。
この苦しさ。
何十時間もかけて、ようやく救急車の出動が認められます。しかし、銃弾が飛び交う中を、救急車はじわじわと現場へ向かいます。
アレックス・ガーランドの「ウォーフェア 戦地最前線」という映画がありました。あの映画では、観客は兵士たちとともに戦場に放り込まれます。この映画では、それと同じような惨状が、電話の向こう側で続いているのです。
このあとのことは、とてもここでは書くことができません。
ラジャブさんの声と救急隊員の声が途切れたあと、そこで何が起きたのかを、私たちは直接見ることができません。
最後に映し出されるのは、救急車の残骸。そして、ラジャブさんが乗っていた車に残された、おびただしい数の銃痕です。
これを現実だと思えるでしょうか。しかし、現実なのです。
残念ながら、戦争はまだ終わっていません。そして、さらにその範囲を広げつつあるようにも見えます。世界が分断され、それぞれの地域や社会がお互いを牽制し合う世界。
そんな時代に、小さな失われた命の声を、私たちは映画の中で間近に聞くことになります。
残酷な映画です。
しかし、だからこそ、この声を記憶しておかなければならないのだと思います。
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