恋のツアーガイド スティーブン・ツチダ監督

どんどん悪化する。


日系のディレクターによる作品。知っている俳優はゼロ。全く小粒な映画だが、とても美しい映画だった。

旅行代理店に務めるアマンダは、同棲しているボーイフレンドが突然アイオワに引っ越すと言い出して混乱する。しかも自分を連れて行くつもりがないようだ。途方に暮れる彼女に、旅行代理店のボスは「ベトナムの代理店買収」の話しをもちかける。ベトナムではシンという英語堪能のベトナミーズが、アマンダの旅程を全く無視したツアーに案内し・・・

恋人とのことで心揺らめく中年女性と若いベトナミーズのラブストーリー。アマンダには経験のない、そしてガイドブックにはない美しい場所と体験が待ち受ける。

ずいぶん前にダリチョコもホーチミンを旅行したが、その時の思い出は生涯忘れることがないだろう。すごい体験だった。そのベトナムを巡るドラマは、オーソドックスでありながら、どこか郷愁あふれるドラマであり、不思議な魅力を感じさせる。ベトナムに限らず、自分の国、自分の故郷をツーリストに案内することができるだろうか。例えば、初めて日本に来る外国人に、自分だったらどこを案内するだろうか。そんなことを考えさせる映画でもある。

ベトナミーズのシンがアマンダを連れて行く場所は、いわゆるツーリストが団体で押し寄せる混雑した場所ではなく、ベトナムにいまも佇む里山のような風景。そして画面の背景には時として水墨画のような山々が描かれ、棚田の緑色が極めて印象的だ。シンの祖母の家に宿泊することで、アマンダをはじめツーリストたちはその国、その土地の人びとのもてなしに触れ大きな感動を得る。旅とは必ずしも風景だけではないことを教えてくれる。

紆余曲折があって、行き急ぐアマンダがハノイのオペラハウス前に立つシンに会うため、たくさんのバイクが去来する通りを突き抜ける。ゆっくりとしかし立ち止まることなく進む。このラストはとてもいい。忙しさと喧騒にまみれて、形だけの恋愛、形だけの忙しさに陶酔する自分を見直すドラマだ。

さて、そうだなぁ・・・。自分がこの国を案内するならどこがいいか?東京の下町にも案内すべき箇所はたくさんあるのだが、できれば外国人向けに観光地化されていない美しい場所をアテンドしたいものだ。東京だったら神保町かな?

それにしてもベトナムは変わった。冷戦時代を象徴する大きな戦争がここで繰り広げられていたことがまるで夢のようだ。もしかしたらあれは夢だったのか?

ウィラードがメコン川を遡ってカーツを殺しに行く。あれもまたツアーのひとつだろう。当時サイゴンだった都市は英雄ホーチミンの名前を冠し、全ては何もなかったように存在する。


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