#関心領域 ジョナサン・グレイザー監督
「関心領域」
The Zone of Interest | Official Trailer HD | A24
公開初日の夜、日本橋で鑑賞。予備知識なしで鑑賞することをお勧めする。従ってここでもあらすじには関与しない。
冒頭、真っ暗なシーンが延々と続く。そして晴れた川べりで家族が過ごす姿。青い空。途中反転して画面が真っ赤に染まるシーンがあって、ここでなにか轟音が響く。この音の正体はいったいなにか?あまりにも美しいシーンと平凡な家族の風景を見るうちに、画面の外で起きていることを忘れそうになる。
主人公のルドルフ・ヘスはドイツ労働党の副総統まで上りつめた男。彼の着る白いスーツもまた印象的だが、この男は全く笑わない。笑わない表情の向こう(心理)にはどんな理性があるのか。
「落下の解剖学」でも見事な演技を見せたザンドラ・ヒュラーは、ヘスの妻を演じる。彼女の演技がすごい。容赦のない欲望を放ち続けるそのインパクトは強烈だ。使用人に向かって「お前を灰にしてばらまくこともできる」と断言する。
最後、不思議なシーンで終わる。将校のヘスがパーティ会場を見下ろたあと、オフィスから妻に電話して「全員をどうやって殺すか考えていた」と言い、妻に電話を切られる。オフィスから出た彼がこのあとどうなるのか。
結局、人は同じこと(過ち)を繰り返す。暗黒の時代、血に塗られた赤。こうした歴史を組織の中で淡々とこなし家族を養うヘスは、その後絞首刑になった人物だ。しかしこの映画を見る限りヘスの人物像として何か特別なところはほとんど見られない。
世界一の大国の大統領がガザで起きている行為を「虐殺ではない」と発言し、欧州諸国はこれに反発するように「パレスチナを承認する」と意思表示し、そして東アジアでも「領域を狭めよう」とする意識が広がっている。すでに第三次世界大戦は始まっているのかもしれず、我々は関心領域を小さくして、この一大事を見てみぬふりをして過ごそうとしている。
暴虐から目をそむける心理を現代人に突きつける『関心領域』、ジョナサン・グレイザー監督インタビュー|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式
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