モリコーネ 映画が恋した音楽家 ジョセッペ・トルナトーレ監督
長い映画だが、中盤から自分が映画館で見た傑作の数々と名曲が次々に流れて、そのあまりの感動で目が霞んだ。予告編を見るだけでも涙が止まらない。モリコーネの真摯で真面目な姿勢が生涯の信用と信頼と評価に結実したのだ。素晴らしい映画だった。映画として最高傑作だったと思う。「ニュー・シネマ・パラダイス」以来の縁があるトルナトーレ監督が晩年のモリコーネに密着して、想像を絶する多くの関係者から聞き取ったインタビューを余すことなくこの映画の中に盛り込んでいる。
劇場は年配客でびっしりだった。自分より上の世代も多く、おそらくこの映画を見て当時を思い出しているのではないか。とくに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」はその象徴だ。
あまりにも偉大で、その傑作が多すぎるあまり、何から伝えればいいかわからない。それほどまでにエンニオ・モリコーネの偉業はすごすぎる。だから結局自分とモリコーネの関係で何かを書くことになるのだが、その数もあまりに幅が広く整理できない。
したがって、自分の知らなかったことを少しだけ書くと、モリコーネがなんとジョン・ケージの影響を受けていたとは以外だった。ケージの影響と知って納得できるのは、モリコーネが楽器以外の様々な道具を使って音を生み出したことだ。実に面白い。現代音楽(前衛音楽)から映画音楽に向かったのはとても納得できる。そしてもうひとつは、911の音楽を作っていたこと。ビルから人が落ちるところをこの映画でじっくり見せるシーンがあるが、そこにモリコーネの楽曲が重なり、平和への思いが強くなる。その美しい旋律がかけがえのないものであることを示している。
この映画を映画館で見れば、映画の本質を実感できると思う。チャップリンの映画を大勢の観客とともに鑑賞して拍手が沸き起こることと同じで、映画音楽を扱った映画が、かつてみた素晴らしい映画のシーンとともに胸に迫るのは、やはり映画館ならではの醍醐味だ。映画があらゆる芸術を飲み込んでゆくことを感じさせる。そしてモリコーネが、音楽だけでなく、映画そのものに大きな影響を与えていたことを、この映画であらためて知ることができる。とかく大御所は自分のイメージで音楽を強要するが、モリコーネはそこに隙を与えなかった。自らの責任と負担において音楽を生み出すことに妥協を許さなかったのだ。
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