「進歩」を疑う ② ゼロからの再出発

dalichoko(ダリチョコ)



第6章 もっと悪いものにする


「権威が衰えるとき、もっと悪いものになる」。

これは一見意味不明ながら、極めて含蓄のある指摘です。

私は『ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階』を思い出しました。

勢いで政権を奪取するのは簡単でも、維持するのは難しい。

権威の衰えを隠すために、より悪い行動をとる――まさにそういう構図です。


ジジェクはここでさらに挑発します。

「どうせ悪化するなら、もっと悪くしてしまえ」。

これは、自民党に失望して参政党に走る心理にも通じます。

破壊への道が、むしろ刷新の兆しかもしれないという逆説。


第7章 真の変革のための実践主義


破壊された現状から「ゼロへのリセット」を構想する章です。

ヤニス・バルファキスの『テクノ封建制』を再び参照し、現実に適応すべきか、それとも抗うべきかを問います。

キルケゴールの言葉を借り、「革命とは出発点を反復する運動」として、正統派がとりうる最も過激な行為が“破壊”だとする。

このあたり、読んでいてもはや開き直りに近い過激さを感じます。


第8章 忍び寄るアメリカ内戦


2024年の米大統領選。

もしトランプが有罪なら「刑務所から指揮を執る初の大統領」になっていた――そんな書き出しで始まります。


アレックス・ガーランド監督の映画『シビル・ウォー』を引き、二つの問題を指摘します。


1、暴力への鈍感化。

2、戦う理由よりも、暴力そのものが目的化してしまう危険。


ジジェクは、こうした極端な例を並べながら「リベラル中道こそ危機の根源だ」と断じます。

日本で言えば、立憲民主党も国民民主党も、そして自民党すら――「民主」を名乗る欺瞞に満ちている。

制度を上塗りするだけでは、何も変わらないというわけです。


第9章 今は想像さえできない「連帯」のために


リンカーンは「すべての人々を常時騙すことはできない」と言いました。

しかし現代では、SNSとメディアによって大多数が常時騙されている。

ジジェクはこの章でベケットの「もっとうまくしくじろう」を引用し、民主主義の幻想を痛烈に批判します。

「自分たちに決定権がある」という錯覚――そこにこそ危機が潜んでいる。


コロナ禍における“連帯”の試みは、実は共産主義的行動そのものだった。

だが人々はそれに気づかない。

ジジェクは、戦争やパンデミックのような危機が訪れない限り、人間は真の連帯を学ばないと述べます。


ここまでを整理すると、彼の主張はこうです。


1、権威や制度の衰退は、より悪化を招く。

2、上塗り的改革は根本的変化にならない。

3、破壊は否定ではなく再出発の契機。

4、リベラル中道の延命は危機の源泉。

5、真の変革と連帯は、危機を自覚することでしか生まれない。


つづく・・・


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