「進歩」を疑う ② ゼロからの再出発
スラヴォイ・ジジェク『「進歩」を疑う──なぜ私たちは発展しながら自滅へ向かうのか』、全国の書店で売れています。
私たちは「進歩」してきたのか?
そもそも「進歩」とは何であり得るか?
壊れる世界で、この古びた理念を再定義せよ。
思想家ジジェクを知る、最初の一冊としても。 pic.twitter.com/5DhGzOozPJ— NHK出版新書/NHKブックス (@nhkpb_shinsho) July 21, 2025
第6章 もっと悪いものにする
「権威が衰えるとき、もっと悪いものになる」。
これは一見意味不明ながら、極めて含蓄のある指摘です。
私は『ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階』を思い出しました。
勢いで政権を奪取するのは簡単でも、維持するのは難しい。
権威の衰えを隠すために、より悪い行動をとる――まさにそういう構図です。
ジジェクはここでさらに挑発します。
「どうせ悪化するなら、もっと悪くしてしまえ」。
これは、自民党に失望して参政党に走る心理にも通じます。
破壊への道が、むしろ刷新の兆しかもしれないという逆説。
第7章 真の変革のための実践主義
破壊された現状から「ゼロへのリセット」を構想する章です。
ヤニス・バルファキスの『テクノ封建制』を再び参照し、現実に適応すべきか、それとも抗うべきかを問います。
キルケゴールの言葉を借り、「革命とは出発点を反復する運動」として、正統派がとりうる最も過激な行為が“破壊”だとする。
このあたり、読んでいてもはや開き直りに近い過激さを感じます。
第8章 忍び寄るアメリカ内戦
2024年の米大統領選。
もしトランプが有罪なら「刑務所から指揮を執る初の大統領」になっていた――そんな書き出しで始まります。
アレックス・ガーランド監督の映画『シビル・ウォー』を引き、二つの問題を指摘します。
1、暴力への鈍感化。
2、戦う理由よりも、暴力そのものが目的化してしまう危険。
ジジェクは、こうした極端な例を並べながら「リベラル中道こそ危機の根源だ」と断じます。
日本で言えば、立憲民主党も国民民主党も、そして自民党すら――「民主」を名乗る欺瞞に満ちている。
制度を上塗りするだけでは、何も変わらないというわけです。
第9章 今は想像さえできない「連帯」のために
リンカーンは「すべての人々を常時騙すことはできない」と言いました。
しかし現代では、SNSとメディアによって大多数が常時騙されている。
ジジェクはこの章でベケットの「もっとうまくしくじろう」を引用し、民主主義の幻想を痛烈に批判します。
「自分たちに決定権がある」という錯覚――そこにこそ危機が潜んでいる。
コロナ禍における“連帯”の試みは、実は共産主義的行動そのものだった。
だが人々はそれに気づかない。
ジジェクは、戦争やパンデミックのような危機が訪れない限り、人間は真の連帯を学ばないと述べます。
ここまでを整理すると、彼の主張はこうです。
1、権威や制度の衰退は、より悪化を招く。
2、上塗り的改革は根本的変化にならない。
3、破壊は否定ではなく再出発の契機。
4、リベラル中道の延命は危機の源泉。
5、真の変革と連帯は、危機を自覚することでしか生まれない。
つづく・・・
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