名探偵ポワロ「Little Grey Cells(灰色の脳細胞)」
8月30日、「シネマ秘宝館91」が開催されます。チケットはこちらからお早めに。
第3シリーズは、第1話「スタイルズ荘の怪事件」で、ポワロとヘイスティングスの再会から始まります。これは、スタイルズ荘の怪事件、すなわちアガサ・クリスティが初めてポワロを登場させた記念すべき作品です。第一次世界大戦を経てベルギーから亡命してきたポワロと、休暇でスタイルズ荘を訪れていたヘイスティングスが再会し、そこで殺人事件が起こります。ベルギー警察で名を馳せたポワロが「灰色の脳細胞(Little Grey Cells)」を駆使し、現場のわずかな証拠から真相へと迫る姿は圧巻で、この後のシリーズを象徴する幕開けとなっています。
「100万ドル債券盗難事件」は、豪華客船クイーン・メリー号を舞台にした痛快な一編です。自由債券の盗難事件で、ポワロは意外な方法から犯人を見抜きます。犯人が次々と変装を重ねる趣向も見どころです。
また、本シリーズでは宝石をめぐる事件も印象的です。「プリマス行き急行列車」「盗まれたロイヤル・ルビー」「二重の手がかり」では、没落しつつある貴族たちが財産や宝石をめぐって犯罪に手を染める姿が描かれ、その背景には時代の変化が色濃く映し出されています。
クリスティ作品に欠かせない列車を舞台にした物語も巧みに映像化されています。「プリマス行き急行列車」や「猟人荘の怪事件」では、列車や時刻表を利用したトリックだけでなく、ロケーション撮影の素晴らしさも魅力です。車窓や田園風景など、美しいイギリスの景色が物語に豊かな彩りを添えています。
このシリーズで私が最も心を動かされたのは「二重の手がかり」です。この作品には殺人事件がありません。ジャップ警部やヘイスティングスがやきもきする一方で、ポワロはロシアから亡命してきた伯爵夫人と静かで優雅な時間を過ごします。
結末では、ポワロは誰も傷つけることなく、盗まれた宝石をジャップ警部に「発見」させる形で事件を収めます。そして伯爵夫人との別れ――そこには胸をえぐるような切なさと気高い美しさがあり、私には「旅情」を撮ったデヴィッド・リーンの世界が重なって見えました。
ここまで見てきて改めて感じるのは、このドラマが長く愛され続けた理由は、クリスティの原作の魅力だけではないということです。デヴィッド・スーシェをはじめとする名優たちの演技、美術や衣装、そして映画さながらの美しい映像表現が一体となり、テレビシリーズの枠を超えた完成度を実現しています。
旅客船や列車だけでなく、飛行機や自動車を使った迫力ある場面も随所に盛り込まれ、毎回驚きの連続でした。
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1990年11月から1992年7月
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