ボブ・マーリー:ONE LOVE レイナルド・マーカス・グリーン監督
Bob Marley: One Love - Teaser Trailer (2024 Movie)
劇場はほぼ満席。前の席に座った若い女性たちは、ボブ・マーリーの楽曲にノリノリだった。しかしこの映画は残念ながらミュージッククリップではない。強烈な政治的映画だ。いまからもう50年近く前の存在だと聞いてもしっくりこない。この偉大なるミュージシャンがそんなに昔の人物であることがしっくり来ない。
忘れもしない、渋谷陽一さんのラジオで初めてレゲエ(当時は「レジー」などとも言っていた)を聞いて、この映画にも出てくる「エクソダス」をはじめ、ジミー・クリフやサード・ワールドの楽曲にのめり込んだ時期がある。しかし、ボブ・マーリーの楽曲にこれほどの政治性があるとは知らなかった。
ジャマイカから仕事で来日している若い方とお話したが、若い方にとってボブ・マーリーは遠い昔の存在のようだった。
この映画が素晴らしいのは、歌詞だ。画面に示される歌詞がこの映画のテーマなのではないか。ボブ・マーリーの楽曲をそのまま流すだけでもこの映画の言わんとすることは伝わる。特に「エクソダス」が作られるまでのエピソードは興味深かった。
ボブ・マーリーが祖国で銃撃されて、亡命生活の果て、祖国に戻ってライブを開くまでのすさまじい戦いもさることながら、彼が育った環境と彼の生い立ちが印象的だ。あの極貧の中から這い上がった人物が、どうしてあれだけの知性を手に入れることができたのか。彼の父親の影に追われる炎のシーン。彼はずっと偏見の中、捨てられた父親と和解の道を探っていたのだろうか。
戦いは続いていく
基本的人権が民族にかかわらず
すべての人に平等に保障されるその日まで
戦いは続いていく 「War」
戦争が単なる戦いではなく、根底に何があるのかを彼はどうやら見抜いていたようだ。それは彼の宗教観、ラスタファリに遡るらしい。彼がずっと内面に手にしていた聖書の存在が、彼のキャリアを積み上げたのだ。
冷静になると「人間の境界」、「マリウポリの20日間」、「オッペンハイマー」、「カラー・パープル」など、最近見た多くの映画がこの作品へとつながってゆくことに気付かされる。
ここまできて気づく。昨年お亡くなりになったアイルランドの偉人シネイド・オコナーさんが恐ろしい観客のバッシングを前にボブ・マーリーの「War」を歌った動画を。
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