人間の境界 アグニエシュカ・ホランド監督
「人間の境界」
新宿三丁目にあるキノシネマ新宿には初めて来た。50人程度の小さな劇場だが、トイレにポパイとオリーブの絵が施されているなど、ユニークな映画館。スクリーンは小さかった。
映画は「人間兵器」の話。まずベラルーシのルカシェンコというとんでもない独裁政権の大統領はいまも政権に君臨している。対するポーランドも同じ。双方の国が難民を受け入れず、国境付近で行き来する人々の物語。これは実話だ。
冒頭の数秒だけ美しい森林をカラーで映すシーンがあるが、タイトルとともにモノクロへ反転する。この映画の生々しい現実をカラーで見ることは不可能かもしれない。希望に満ちた難民が国境の有刺鉄線を抜けて泥沼に追いやられる。
見ていて大島渚のドキュメンタリー「忘れられた皇軍」がよみがえる。さらに「ビヨンド・ユートピア脱北」や「マリウポリの20日間」など、いずれも実際に起きている現場を映すものだが、どの映画も行き場を失い国家を超えて生き延びようとする人々を描く。
しかしアンジェイ・ワイダ監督とも仕事をした経験のあるホランド監督は、この映画にある人物を配置する。この人物は国家の威信をかけて移民を追い払う仕事をする国境警備隊員だが、この人物の心の内側示されるシーンに心を打たれる。この映画は、被害者としての家族だけでなく、この蛮行に手を貸さざるをえない人々や、難民を救おうとしながらも、一定のルールに縛られて実現できないアクティビストなど、様々な立場からこの問題を掘り下げる。
途中からなぜか涙が止まらなくなって、次々に示される残酷なシーンに心を傷つけられる。これがいまも続いている現実だと聞くと背筋が凍る思いだ。
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