蛇の道 黒沢清監督
「蛇の道」アスクレピオスの杖
友人とヒューマントラストシネマ渋谷で待ち合わせして、前日仕込んだチケットで鑑賞。
フランスほか海外での黒沢清監督の評価は極めて高く、「スパイの妻」が海外で賞を受賞したことから、今回もフランスサイドからのオファーで自身がVシネマで作った映画をリメイクすることにしたようだ。
ひとえに柴咲コウさんである。フランス語も英語も駆使してこの映画では、フランスにいる日本人女性を見事に演じきっている。大変失礼なことを言うと、柴咲コウさんは御本人の才能とは裏腹に、ここ数年、映画の世界で恵まれた仕事がなかったと思う。テレビの延長のようなドラマも多く、彼女の存在感を示す機会に恵まれなかったと感じている。ここでは、かなり彼女のステータスを上げる見事な演技を見せている。彼女はほとんどフランス語で演技している。これが初めての挑戦だったという。
診療医という立場で、幼い子供を失った男性の復讐を支援するドラマだ。物語の内容をここで重ねることはしないが、主人公のふたりがやたらと死体(生きてる場合もある)の寝袋を引きずって走るシーンが延々と続き、そのシーンが極めて印象的だ。ひきずったあとに作られるわだちのような道こそ、蛇が通るであろう道。この映画は道を示す映画なんのだ。何しろオープニングで柴咲コウさんが見つめるのも道だ。
黒沢清監督も言うように、この映画は柴咲コウさんの目力、目線にかかっている。彼女はこの映画で全く微笑むこともなく、ひたすら強い目線で何か(誰か)を見つめる。そして彼女がどうして復讐劇を支援するのか、まったく説明もされないままラストに向かう。
ある種の喪失感を映画が示していて、黒澤監督独特の精神世界が広がってゆく。
黒沢清監督は、大島渚賞の選考委員でもあり、授賞式でお話を聞かせてもらう機会があった。
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