「うち、テレビないんですよ」

「うち、テレビないんですよ」


と隣の席の方に話しかけたら「えぇぇ!、マジですか?」というお返事があった。ところが、そのまた隣の若い方が、


「ああ、うちもないですよ


と会話がはずんで、間にはさまれた「えぇぇ!」のおじさんが気まずそうになる。この定食屋は夜居酒屋状態、カウンターでのんびり飲み食いするお客さんであふれかえる。すると店内のテレビから、日本の被団協がノーベル賞を受賞したというニュースが流れてくる。店内のお客さんは静かにこのニュースに反応。テレビってやっぱり眼を奪う。


思えば1960年代に生まれた我々は、ものごころついた頃から家にテレビがあった。このテレビも、一家団欒の道具で、テレビのチャンネルは親が主導権を握っていた。NHKの7時のニュースは必ず流れていた。ハゲ頭のアナウンサーがニュースを棒読みするイメージが残像として残っている。


その後、家の中にテレビが1台、2台と増え、いつしかテレビは一家団欒の場を離れ、見たいテレビを家族がバラバラで見る環境へとシフトする。それでも大晦日の紅白歌合戦は毎年家族で見たものだ。


テレビがゲームやビデオで使われるようになって、団欒だった家族はどんどん離れて、いつしかテレビは自分のものとなり、いまはスマホなど多様化が進む。アナログだったテレビもデジタル化され、大画面テレビが売れに売れた時期をピークアウトした気がする。


うちにあった最後の24インチテレビを捨てたのはつい最近だが、そのテレビも数年見ることはなかった。引っ越しを繰り返すうちにNHKの集金も諦めたらしく来なくなった。とても快適だ。テレビがない、という生活がこれほど心地よいものかと思う。それまでは、どれも同じようなバラエティ番組とお笑い番組で溢れたテレビを見ると、不愉快な思いが強くなるばかり。テレビに向かって怒りをぶつけるような時期が続いたが、いまはそういう不快さはまったくない。


先ごろアメリカの大統領がトランプ氏に決まったようだが、テレビ番組で好印象だったハリス氏を大差で破ったトランプ氏は、20代を中心とするネットメディアに顔を出して、若年層の票を上積みしたという。(この結果をいち早く予想していたのが、ロシアメディアだったというのも皮肉だ。)そして言うまでもなく、いまはテレビよりもネットの時代となってしまった。


ブログよりは動画。テレビよりネットの時代。ネットがフェイクだらけでも人はその”動き”に惹きつけられる。内容などはどうでもいい。自分にとって都合のいい情報ならそこに留まる。一家団欒だった頃のチャンネル争いはもう大昔の幻だ。さらに動画もまたTikTokやインスタグラムなど、短い動画が次々と移ろいゆく。少なくとも、テレビの前に座って漠然と一日を過ごすという時代ではない。行き場のない高齢者だけがいまだテレビにかじりついている。


この先どうなるかはわからないが、ひとつだけ言える確実なことがある。


メディアは信用できない


ということだ。メディアこそがフェイクだ。こんな当たり前のことに気づくまで半世紀がかかった。彼らも所詮スポンサーの意思で働かされる奴隷だ。資本主義や民主主義という概念に疑問が抱かれる時代。独裁や支配から離れて目指してきた”自由”という幻想は、今回のアメリカ大統領選で大きく考えを改める時期が来たのではないか。中国、ロシア、北朝鮮にアメリカが加われば、インドもそれに追随するだろう。これら大国の独裁国家が世界の中心となることを1年前に予想したメディアがあっただろうか。もうそろそろ資本に縛られるニセモノの自由とやらにおさらばする頃ではないだろうか。


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