マティス展 東京都美術館

会田誠さんが出てる。




上野の森もコロナ禍を経て、少し雰囲気が変わってきた。そんな4月の末から始まったアンリ・マティスの大規模な展覧会が20年ぶりに開催されるというので行ってきた。

マティスのことは全く知らない。知らないが、こうして時系列に並べられた作品を見渡すと、その興味の範囲の広さに圧倒される。


この初期の作品に見る豪華な色使いと構成がすごい。美術館に入って最初に見るフロアーには印象派からフォービズムへと変化してゆくまでの力強い作品の若々しさが伝わってくる。

マティスの魅力はそのスケール感だけでなく、彼が大きな戦争を2度経験することで生じた彼自身の変化なども興味深い。この作品は第一次世界大戦時に作られた「窓」。この黒塗りの窓は窓の外なのか内なのかもわからない。そのわからない黒塗り部分に戦争の闇が重なる。

マティスの油絵には、青い色がうまく使われている。それはひとつの同じ色ではなく、作品の主題に合わせた青。

人物にはピンク色を配し、その背景のどこかしらに青を多用するのが印象的だ。

第二次世界大戦を経て、彼の思考はより原色を強め、晩年は切り絵の連作に挑戦する。

そして彼の祈りは最後に教会へと向かう。3階のフロアの最後ではロザリオ礼拝堂へと向かう。

これが実に素晴らしい。

なにもかもが素晴らしいと思える作品群なのだが、このロザリオ礼拝堂の表現は彼の生涯の高みを極める最高の美しさだ。ガラスから入る光の色で変化するろうそくや床。画家が古い時代から常に格闘してきた光の数々をマティスはこともなげに表現する才能を秘めていたのではないか。マティスの作品には淀みがない。自らの才能を純粋に表現することだけに無心する姿を思い浮かべるが、神の領域に上り詰めようとした瞬間、マティスが本当に抱える優しさが伝わってくるような気がする。ここで描かれるキリスト像や司祭の肖像には顔がない。表情がないという表現が適切か。それはもしかするとマティス自身のことを示すのではないだろうか。マティス自身が白いキャンバスのような存在で、そこに自らの目を通した青を中心とした色を重ねる。マティス独特の色遣いは、彼が思い描く神と、彼がこよなく愛したフランスの大地、田園風景を背負うもののように感じる。
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