英雄
7月10日付け、日本経済新聞「春秋」より。
1976年に公開された映画「タクシードライバー」は名作の誉れ高い。ベトナム戦争に従軍した元海兵隊員は帰国後、疎外感を募らせる。殺傷力の高い銃で武装し、遊説中の米大統領候補の殺害を企てた。だが、不審な行動に気づいた警察官に阻まれ、未遂に終わる。
▼次に、少女を更生させる、という目的のために売春組織を相手に銃撃戦を展開する。もし、大統領候補を暗殺していたら、民主主義の敵として指弾されたはずだ。でも皮肉なことに、少女を裏社会から救った英雄として、メディアに称賛される。ロバート・デ・ニーロが、不眠症に悩む孤独な男の狂気を見事に演じきった。
▼映画で、男は日々の鬱屈をノートに書きとめる。この印象的なショットは、ドストエフスキーの「地下室の手記」を想起させる。小説の主人公は、40歳の元公務員だ。社会に背を向け毒を帯びた言葉を独白する。「俺が本当に望んでいるのは、別のことだからだ。何だと思う? お前たちなんか、皆、破滅しちまえばいい」
▼40代の元自衛隊員の容疑者は、どんな心の闇を抱えていたのか。安倍晋三元首相の命を奪った凶行の衝撃さめやらぬなか、参院選の投票日を迎えた。私たちに今、できることは何か。元首相の無念に思いを致し、悼むこと。そして投票所に足を運ぶことだろうか。1票が民主制の強度を支える1本の柱となることを信じて。
忸怩たる思いだ。
トラヴィスが英雄になったのは偶然だが、彼は間違えれば犯罪者、つまりはこの度の日本における銃撃事件の容疑者と同じ存在となるはずだった。少女を救うために犯罪者を銃撃するより、国を守るために彼が候補者を射殺しようとした行為こそ正義だったのではないか?
歴史は様々な教訓を示す。
もし狙われた(あるいは射殺された)人物がヒトラーやスターリンだったら?
多くの冷静な人々が「もっと早く始末してくれればよかったのに・・・。」と思ったのではなかろうか。
もう手遅れだが・・・
「ああ、そうですか」という心境だ。
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