世界を変えた建築構造の物語③「日本の“見えない美しさ”」

- Built: The Hidden Stories Behind Our Structures
Bloomsbury Publishing PLC
本
著者のロマ・アグラワルさんは、世界を旅して日本にも来ているそうです。日本の美しさは、景観ではなく、衛生の美しさ。ゴミひとつ落ちていない町の美しさの理由のひとつは江戸時代にヒントがあるようです。
江戸時代に「排泄取引」があった、と聞くとピンときませんが、阪本順治監督の「せかいのおきく」を思い出すとなんとなく伝わります。
当時の江戸は世界でも有数の人口が集中する都市だったそうで、この人口急増をまかなう食糧自給のために「二毛作」が行われた。その土の栄養分を補うために動物の排泄物だけでは足りなくなったので、「下肥(しもごえ)」です。これが大きな事業に発展し、下肥が野菜や果物と交換されるようになり、さらに価値急騰で銀による取引きが行われるようになりました。下肥がインフレを誘引したため、江戸幕府が介入するほどの事態だったそうです。(ここでも「大きな政府」が物を言います。)
もうひとつ感心したのは、長屋の下肥は大家に帰属していたらしく、店子が増えて下肥も増えると全体の家賃を安くする、という仕組みもあったようです。しかも、こうした仕組みは、水質汚染がなくなるメリットもあったそうですね。驚きました。
逆にロンドンのテムズ川は、動物や人の死体が流されるほど汚染されてひどかったそうです。コレラが流行したのは、テムズ川の汚染が主な原因だったとか。この事態にジョセフ・バザルゲットが、テムズ川の下に排水管を作って下水道を通したのだそうです。「バットマン・ビギンズ」や「シャーロック・ホームズ」にも出てくる「クロスネス揚水機場」はその名残りなんですね。

橋の建築も構造エンジニアの仕事で、ロマさんは最高の橋たちとして、
1、旧ロンドン橋(♬ロンドン橋落ちた♬)
2、浮橋
3、フォルカーク・ホイール
4、シルクの橋
5、石舟橋
を挙げています。どれもワクワクするようなエピソードが隠されているようです。
わたくしも、建築系の資格を勉強したことがあって、多少重なり合う部分があるので、とても興味をそそられました。靭性と剛性、引張力と圧縮力など、聞き慣れた言葉がより興味深くさせてくれます。
こうした構造の考え方は、時代とともに変化します。例えば「制震構造」から「免震構造」への変化。力で対抗するのではなく、エネルギーを吸収してしなやかな強さを維持する。「水のように」変化を受け入れる考え方は共感できますよね。政治家の皆さんもぜひ勉強してほしいです。
そして建築とは、単なる構造ではなく、人間がどう生きるかの記録と記憶なのかもしれません。
おしまい
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