パンクの系譜学 ③ 仕組まれた社会
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パンクが中産階級から出てきたもので、セックス・ピストルズも計画的に練られて出現したものであることを知ると、メディア戦略に翻弄される我々もまた資本と同じ加害者である。
パンクもまたアートとしての側面が強調され、様々な要素を組み入れて多くのアーティストを生み続けている。
ドゥボールの「スペクタクルの社会」では、メディアが全ての消費に誘引することを警告しているが先ごろ読んだ四方田犬彦先生の著書で紹介される「スペクタクル理論」とここで合致する。四方田先生はドゥボールを意識したのだ。
本の構成としては、ここまでで約半分で、さらに膨大で詳細な情報が紹介されてゆくのだが、特にセックス・ピストルズ以降のムーブメントについてはあまりにも情報量が多くて消化しきれないものの、第17章「パンクと人種」という箇所で「類型論的偏見」という日本ではあまり紹介されていないポール・C・テイラーの諸説が興味をそそる。
人類は恣意的な方法で分類されてきた
これを受けてジョン・ロットンがパンクの起源論争で、
イギリスが自由だったことなど一度もない
このふたつのキーワードは極めて抽象的に現世を象徴していないだろうか。この本でパンクの起源を掘り起こすことで、音楽の始まりが奴隷や労働者階級から生まれたものであるにもかかわらず、資本はそれすらも飲み込んで恣意的に支配者有利の構造を維持し続ける。マルクスに対抗するアナキストの真意をここで理解することができる。
企業が行う「計画的陳腐化」は恣意的に爆発的なヒット商品を生んだあと、それを陳腐化させてどんどん新たな消費を生む計画が推し進められてゆく。この構造を示したことがこの本の趣旨であるように感じる。
パンクに限らず、音楽に興味のある方ならどこかに価値のある本だし、自分としては経済史的観点からこの本から学ぶ点が多くあった。
特にアナキズムを日本語にして誤解を振りまいていることを知ることができたのは画期的だった。
おしまい
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