歌うたい「歌だけが、そこにあった」
今年のアカデミー賞を受賞した短編です。
トゥルゲーネフの「猟人日記」をベースにしているとのことですが、どのあたりが「猟人日記」に当たるのかはわかりません。
たった18分の映画ですが、胸を撃ち抜かれる思いでした。今年見た映画の中で一番かもしれません。素晴らしい作品。
場末のバーが舞台。貧しき人々が酒を飲んでいます。ひとりカネがない若者がマスターにおごってくれとねだります。マスターは「あそこのチューブをしている老人に歌で勝てたらおごる」と応じます。老人が「朝日の当たる家」を歌うと、若者もピアノを弾いて応じる。このあとさらに・・・。店に集う酔いどれが抱き合い塊のようになります。この感動。
マスターには亡くした妻がいるのでしょう。背景の説明は一切ありません。しかし、それでもこの18分は映画として見事に成立しています。
天井に貼り付けられた無数の1ドル札の中に、1枚だけ100ドル札がある、という舞台設定も見事。
そして実は、この店に集う貧しい酔いどれたちは、皆、歌を歌う人たちだった、というオチです。
個人的にミュージカル映画をこよなく愛する者にとって、この小さな作品から放たれる愛を強く感じざるを得ません。
意味などなくていい。ただそこに歌があれば、人は感動するのです。トゥルゲーネフ的に言えば、人間はほんの一瞬だけ救われる。
素晴らしい映画でした。今年1番!
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【ネタバレ】
なんと黒人のマスターが歌を歌い始めて、クライマックスを迎えます。感動的です。
トゥルゲーネフの原作でも、田舎の酒場に人々が集まる、ふたりの男が「歌」で勝負する
、周囲の人々がその歌に心を奪われる、という構造なんだそうです。「猟人日記」は一瞬だけ立ち上がる「人間の輝き」を描いている作品だとか。

