テクノ封建制① 「資本主義の死とクラウド資本の誕生」

dalichoko(ダリチョコ)

スマホを開くたび、知らぬ間に誰かの利益に貢献している――。そんな時代に、私たちは何を失い、何を差し出しているのか。ヤニス・バルファキス『テクノ封建制』は、その答えを容赦なく突きつけてきます。


テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。(集英社シリーズ・コモン) (集英社学芸単行本)
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。(集英社シリーズ・コモン) (集英社学芸単行本)
集英社
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ヤニス・バルファキス氏の著書を読むのは、かつて『父が娘に語る経済の話』を手にして以来、6年以上ぶりです。今回は斎藤幸平氏の解説が付いていることもあり、興味深く手に取りました。バルファキス氏はギリシャ出身の社会主義者で、かつて同国の財務大臣も務めた人物です。その新刊が今年2月、日本でも刊行されました。


サブタイトルは――

「デジタル空間の領主が私たち農奴を支配する不公平な経済の話」。

一見わかりにくいものの、水野和夫氏の『シンボル・エコノミー』や橘玲氏の『テクノ・リバタリアン』とも重なり合う部分が多く、情報量も膨大。読み終えるのに骨が折れる一冊でした。


はじめに


本書の出発点は「資本主義はすでに死んでいる」という大胆な仮説です。著者によれば、私たちを支配しているのは「クラウド資本」と呼ばれる新しい形態であり、その詳細は後に説明されます。


第一章 ヘシオドスのぼやき


前作と同様、著者は父との対話を通じて時代の変化を描き出します。冒頭に登場するのは、ギリシャ神話時代の詩人ヘシオドス。彼は『仕事と日々』で勤勉な労働を説いた人物です。


ここで強調されるテーマは「労働」。マルクスが述べたように、機械は労働生産性を高める一方で、人々は飢えや過剰労働に苦しむ――この二面性が取り上げられます。

著者は父から学んだ現実として、労働には「商品労働(賃金)」と「経験労働(情熱)」の二つの側面があるといいます。


父から投げかけられる問いはこうです。


「ネットのおかげで資本主義を覆すことは不可能なのか? それとも、やがてそのアキレス腱になる日が来るのか?」


第二章 資本主義のメタモルフォーゼ(変容)


私たちは気づかぬうちにテクノロジーに翻弄され、そこから新たな封建制が生まれています。これこそ本書のタイトル「テクノ封建制」の核心です。


著者は、政府と巨大企業が手を組み「官民一体のテクノストラクチャー」を築いていると指摘します。歴史を振り返れば、ブレトンウッズ体制の崩壊、レーガノミクス、ソ連の崩壊を経て、当時のFRB議長ボルカーが労働組合を弱体化させました。

この流れの中で、新自由主義とコンピューターが結びつき、返済能力のない労働者への過剰貸付がリーマンショックを招きました。著者は、インターネットが資本主義の「進化適応力」を逆に破壊したと述べます。


まさにこのとき、資本主義は大きく姿を変えたのです。


第三章 クラウド資本


クラウド資本の最大の特徴は、従来の資本と異なり株主が存在しないことです。著者によれば、資本主義という枠組みそのものがここで崩壊しています。


インターネットという表向きの“共有地(コモンズ)”では、目に見えない囲い込みが行われ、労働者から価値を吸い上げる仕組みが動いています。クラウド資本はコストをかけずに自己再生できるため、アマゾンやグーグルのサービスを「無料で使っている」と信じている私たちも、実は継続的に価値を提供させられているのです。


それはまるで、チャップリンが機械に飲み込まれる『モダン・タイムス』の光景。

知らぬ間に私たちはクラウド農奴化し、数十億の消費者が無意識にクラウド資本を生産し続けています。


こうしてクラウド資本は「テクノ封建制」を呼び込み、封建制が資本主義に取って代わろうとしている――皮肉にも、資本が資本主義を自ら破壊しているのです。


つづく




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