鬼の筆 ③ 松本清張
- 鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折 (文春e-book)
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「七人の侍」のあと、つらく厳しい黒澤組から解放されて、今井正と組んだ「真昼の暗黒」に取り掛かる。まだ裁判中の原作を大胆に映画化するという問題作。橋本は取材するうちに、これが冤罪であることを確信したという。
話しはそれるのだが、つい最近も和歌山毒物カレー事件を扱う映画の公開が止められたと聞く。「妖怪の孫」や「オッペンハイマー」もそうだが、政治的圧力が映画界にも強まっていることを印象づける。この国がさらに「表現の不自由」な国であることを実感させる。
「張込み」や「切腹」などの作品に続き「仇討」(今井正監督)で川喜多かしこさんとの会話で、
コロシアムで闘牛(ライオン)に殺される人を見て観客は喜ぶ。人の不幸を喜ぶ野次馬のようか狂気があって、人間の営みをつぶす「鬼」を求めるのは観客自身だ。
として、ここで初めてタイトルの「鬼」というキーワードが示される。観客は「鬼」を好むのだ。
さらに、岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」から「上意討ち」などの作品へと続き、橋本のキャリアにおいて重要な存在となる松本清張作品へと向かってゆく。
「砂の器」は映画会社が出資を拒んだため、橋本忍自身が会社を作り、野村芳太郎監督と組んで製作された。ハンセン病を扱う本作は、地味な題材で松竹などの大手がお蔵入りにしようとしたものだが、結果的には大ヒット。親子が彷徨するシーンが印象的な映画だが、実はこのシーンは原作で数行しか書かれていないそうだ。
松本清張とのコンビは続き、「黒い画集」や「ゼロの焦点」がヒット。松本清張の原作本とともに売れに売れた時代だ。
つづく・・・
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