キネマ旬報ベストテン
◆キネマ旬報ベストテン2024年◆
今年もキネマ旬報ベストテンが発表された。日本映画1位が「夜明けのすべて」、外国映画1位は「オッペンハイマー」だった。いずれも話題の映画で、年度を代表する作品としては申し分ないだろう。読者選出ベストテンも両作品がダントツの1位だった。
まだ見ていない映画もあるが、自分のベストテンと見比べて重なる映画は「瞳をとじて」と「シビル・ウォー アメリカ最後の日」そして「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の3本。そして読者選出で2位に食い込んだ「侍タイムスリッパー」ぐらいで、キネ旬の評論家の皆さんと自分を比べるのもおこがましいが、年々キネ旬と自分の感じた映画に隔たりが生じているようにも思える。
ほかにも外国映画では「哀れなるものたち」、「関心領域」、「ホールドオーバーズ」、「落下の解剖学」などクセのある問題作が並ぶ中、やはりA24作品が単なる恐怖映画という領域を超えて、社会問題を強く意識させる作品群を供給していることを認識させる。
評論家の南波克行さんが総評で「多様性の終焉?」として世界が良い方向に向かっていないことを紹介している。「インサイド・ヘッド2」の大ヒットを”最大の驚き”としつつ、前作の多様性から”勧善懲悪的な「排除」をよしとする姿勢を感じた”と書いている。また「哀れなるものたち」や「マッドマックス:フュリオサ」をフェミニズム的視点ではなく、”男性論を女性に反転しただけ”と評している。「ゴンドラ」や「ロボット・ドリームズ」を言語に頼らない傑作としている点は確かにそうだと思う。
読者賞を受賞された精神科医の斎藤環さんの受賞コメントも興味深い。スラヴォイ・ジジェクのこと、あるいは芥川賞を市川沙央さんの「ハンチバック」に言及し「映画館至上主義はマッチョイズムではないか」と問うあたりは学びがある。自省を求められるコメントだ。「どうすればよかったか?」、「悪は存在しない」、「ルックバック」を高く評価されている。
いずれにせよ、昨年が返す返すも「オッペンハイマー」の年であったことは間違いなく、アメリカのアカデミー賞から1年遅れても、この作品が公開されて突きつけた現実を映画史の未来に記録することができたことは重要だ。ほかにも、昨年日本で公開された多くの海外作品が”戦争”を意識させる作品だったことと、そうした世界の潮流からまるで的外れな映画を供給し続ける日本映画との隔たりを、あらためて強く認識させてくれる年でもあった。
日本映画こそ”戦争”に学び同じ過ちを繰り返さない努力をすべきところ、資本がそれを拒んでいる現実が胸を痛める。「表現の不自由」が満遍なくわれわれの深層心理に行き渡ることを憂う。キネ旬の評論にもその傾向を感じる。
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