#夜明けのすべて 三宅唱監督
「夜明けのすべて」
午後から仕事を休んでクイーンのライブに行く前、ちょうど時間が空いたのでこの映画を日本橋で鑑賞することにした。キネノートでもしばらく1位を続けている評価の高い映画。三宅唱監督が「ケイコ、目を澄ませて」で16ミリフィルムを使った大胆で荒削りな映像をここでも駆使している。原作は瀬尾まいこさん。
冒頭で主人公の美沙が雨のバス停でバスが来ても乗らないで横たわるシーン。そこにナレーションで月経前症候群「PMS」について説明される。思えばかつて仕事でご一緒させていただいた方に、何人かこの症状と思しき方がいたことを思い出す。知らないとは恐ろしいことだ。知っていれば少しは理解できたのに。そしてその理解を示すのが、パニック障害の青年山添だ。このふたりが勤務する会社での日々が淡々と描かれる。このふたりは恋愛関係にはならない。そこもまたすごくいいと思う。
お互いを理解しあうきっかけや、周囲の環境などがとても慎ましく、しかも優しさと暖かさがドラマを包み込む。きっと世の中には不自由な症状を他人に伝えることができずに悩み苦しんでいる方も多いことだろう。そのことをこの映画は静かに、説教臭くなく、敢えて主張を控えて表現しているところが素晴らしい。
上白石萌音さんがとても難しい役をうまく演じている。ことによるとわざとらしくなったり、くどかったりしてしまいそうになるのを避け、極めて自然体で演じているように見せている。最後にふたりが勤める会社の昼休み、中庭で人が交錯するシーンをエンドロールに重ねて延々と映すシーンになぜか惹かれてしまう。この自然な関係が難しい。世の中はぎすぎすして、会社や地域でもお互いが距離を置く関係が日常になる中、この映画は人間関係にベタつきを見せず、柔らかいいたわりあいの中で生活する普通の人々を丁寧に紹介している作品である。
(=^・^=)
★
