友情にＳＯＳ　キャリー・ウィリアムズ☆

2022/07/07 12:00

町山智浩映画『友情にSOS』2022.06.07
たまむすびの町山智浩さんの解説を聞いて見ると、より興味がそそられる。ネタバレ気味なので、最後まで読まれる方はご注意下さい。

話しは簡単だ。有色人種が住むシェアハウスに白人の少女が転がり込んで倒れていた、というだけの話しだ。しかし言うまでもなく、そう簡単には終わらない。自分もアジア人としてアメリカに住むとしたら同じ気持ちになるかもしれないという恐怖。コメディ映画だが恐怖映画だ。

すぐによぎったのが『隔たる世界の２人』と『ゲット・アウト』。主人公のクンレという青年が突きつけられたアメリカの現実は、彼の深層心理にトラウマとして残るであろう恐怖。

最初、授業のシーンで女性の教師が突然”Nigger"という文字を示しゾッとさせる。周囲の白人生徒の目線が２人の黒人に向けられるが、彼らは何も言葉が出ない。このおぞましいシーンを笑っていいものかどうかも悩ましいほど、この映画は不思議なリズムで延々とドラマが進んでゆく。
前述のとおり、家に転がって嘔吐している少女を巡る話しだが、我々の感覚だとすぐに救急車、となるが、この国はそう簡単ではない。ショーンは兄が警察に捕まるなど、世の中の現実を知っている。対する医者志望のクンレは正義感に満ち溢れ正直者だ。この２人の言い争いにラティーノのカルロスが加わり、この少女をどのようにするかで言い争いになるドタバタコメディである。

この白人の少女の姉をサブリナ・カーペンターが演じていて、ドラマを盛り上げる。未成年の妹をパーティに誘って置きながら、放ったらかしにしている間に、妹が間違って３人の有色人種の家に迷い込んで倒れた、というのが真相なのだが、姉は「妹が誘拐された」と思って友達を引き連れて必死に探し出そうとする。
方や有色人種の男三人組は、少女を介抱しつつも、自分たちが警察に疑われないようにするために必死に考える。普通に緊急電話をすれば警察が黒人たちの自分たちを疑うことは間違いない。クンレは医者志望のお坊ちゃまだからそういう現実を理解できない。
最後にパトカーに追われながら救急病院（Emergency）に担ぎ込まれるまで、黒人のクンレは白人の少女を心肺蘇生で措置しようとするが、そこに駆けつけた警官がクンレの頭に銃を突きつけて、彼の顔を地面にこすりつけて取り押さえる。『フルートベール駅で』や『デトロイト』の恐怖。白人警官が罪もない黒人に銃を向ける恐怖。

このとき友人のショーンは救助する彼らを見限って、自分だけ別行動でパーティに向かうのだが、罪の意識からか悪酔いしてしまう。
ことが収まって再会したクンレはショーンに「君の忠告が正しかった」と告白する。警官から頭に銃を突きつけられた恐怖。白人たちに罪もない自分たちが疑われる恐怖。正義感をかざしても、白人が黒人たちを見る目の偏見が無意識にのしかかってくる。

Emergency | Trailer Oficial | Prime Video
ドラマのほとんどは夜に展開する。暗い夜のシーンに、肌の色が黒い彼らは時としてかき消されてしまいそうに感じさせる。全編に音楽はなく、まるでドキュメンタリーのような展開もリアルだ。コメディではあるが、笑うに笑えない恐怖が押し寄せる映画。
最後に誤解を招いたサブリナ・カーペンターが彼らの家に謝罪に来る。そして手元のメモを読み始めるが、その目の前でクンレは家の扉を閉じる。そして部屋に戻って友人たちとはしゃいでいると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて映画は終わる。

キャリー・ウィリアムズ監督のインタビューはこちら。

言うまでもなくこの映画は、ジョージ・フロイド事件をはじめとする、黒人に対する白人の偏見を示すドラマだ。映画全体をダークに包み込みながら、最後に取り押さえられるシーンの演出には痛みを感じる。黒人が白人の口移しに心肺蘇生するのを、警察が銃で頭を狙うのだ。このおぞましいシーンでこの映画を一気に恐怖映画に突き落とす。銃と偏見という二重の恐怖を抱えて生きるアメリカの黒人たちの深層心理に迫る映画だった。
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