パスト・ライブス/再会 セリーヌ・ソン監督
Past Lives | Official Trailer HD | A24
幼馴染と20年ぶりに再会したらどうだろう?誰にでも初恋があったはずだ。その人と20年の時を超えて再会することができるだろうか。
日本語タイトルには「再会」とあるのだが、実は大いに違う。このドラマにおける再会は手段であって目的ではない。そして「再会」することの意味も違う。
冒頭のシーンがとてもいい。三人の男女がいる。アジア系のふたりとラティーノの男性。この三人がどういう関係かを誰かがヒソヒソ話しをしている声がする。このシーンでこの映画のほとんどは示されている。幼馴染の男性が韓国からニューヨークにやってきて、すでに結婚した女性と再会する。再会シーンもまたいい。ハグされてぎこちない対応をする男の戸惑い。
戸惑いは夫も同じ。突然20年も会っていない男性が妻に会いにやってくる。自分よりも妻のことを詳しく知っている男性が訪ねてきたらどうだろう。こうした複雑な心境をこの映画は言葉を極力排して、静かに見せようとする。音楽もまた素晴らしい。
妻が男を送るために家を出る。それを見送る夫。そして・・・
ここで気づくことがある。われわれは環境の中でしか生きることができないというどうしようもない現実。英語や中国語や韓国語が交わされる環境でしか一人称を示すことができない。だから冒頭のシーンのヒソヒソ声にアイデンティティの複雑性が込められていることにジワリと気付かされるのだ。
ソン監督の自伝的作品で実際にあったことを映画にしているということだが、かなり普遍的な作りになっていて、プライベートな作品の領域を超えている。素晴らしかった。
そして、これもまたA24でリリースされた映画だ。A24の勢いが止まらない。素晴らしいことだと思う。
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